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【福岡ラーメン物語 のぼせもん|56杯目 ICHIYU RAMEN & GYOZA】

「もっと美味しくなるはずだ。そう思って毎日厨房に立っています」

自分の店を持ちたくてサラリーマンをやめた。大病を患い飲食から離れた。闘病しながら再び飲食の世界へ。そしてコロナ禍の中、意を決して独立開業。五十歳からの新たなる挑戦。諦めなければ夢は叶う。

 

ICHIYU RAMEN & GYOZA

中村美樹雄(Mikio Nakamura)

1971年、佐賀県鳥栖市生まれ。高校卒業後に就職するも、飲食業界に転職。もつ焼店などで店長を歴任後、2013年「らーめん二男坊」に入りラーメンの世界へ。2021年、独立して 「ICHIYU RAMEN & GYOZA」を創業。

 

長引くコロナ禍により飲食業界が大打撃を受けている。人々の行動は変わり、外食をする人は減った。やむなく暖簾を畳む店も増え、愛された味が街から消えようとしている。

『らーめん』(650円)/豚の頭骨、ゲンコツ、背ガラを12時間かけて丁寧に取ったスープは、程よい濃度と粘度があり、骨の旨味が凝縮された味わい。しなやかな平打ち麺としっとり仕上げた大きなチャーシューがスープに寄り添う

ラーメン業界でも老舗が店を閉め、大手チェーンが撤退するなど厳しい状況が続いている。そんな中、一軒のラーメン店が博多に出来た。奈良屋町の路地裏に佇む、ジャズの流れるスタイリッシュな雰囲気の店。中村美樹雄さんは、コロナ禍によって開業のタイミングが狂った。

「物件をずっと探していて、ようやく見つけたタイミングでコロナが来て独立を断念しました。しかし一年以上もコロナが続き、収束を待っていられず勝負をかけました」。

『餃子(8個)』(360円)/豚骨ラーメンにも醤油ラーメンのどちらにも合うジューシーでパンチの効いた味わいになっている。香ばしい焼き目が食欲をそそる

学生時代からスポーツマンだった中村さん。若い頃はサラリーマンをやりながら、休日は少年野球を指導していた。しかし無類の豚骨ラーメン好きだった中村さんは意を決して飲食の世界へ。独立を夢見て居酒屋などで店長を務めていたが、大病を患い無念の戦線離脱。夢は潰えたかのようにみえた。

「やはりラーメンへの夢は捨てきれなかったんです。迷惑をかけるかもしれないけれど、闘病しながらでも続けていきたいと思いました」。

ICHIYUのラーメンは二枚看板。久留米のニュアンスを取り入れた平打ち麺は豚骨、全粒粉を配合した麺は醤油に。製麺屋慶史に特注した麺はラーメンによって2種類を使い分ける

中村さんは独学でラーメンを自作していたが、あらためて一からしっかりラーメンを学びたいと、人気店『らーめん二男坊』に入った。闘病しながら激務であるラーメン店で働く日々。体調が悪い時には長期の休暇を貰いながらも、8年間働き続けた。

「病気を抱える私を雇ってくれて、体調が悪くて休んでも許してくれた修業先の師匠には感謝の思いしかありません。独立を志願した時も親身になって下さり、今も店に顔を出してくれて気にかけて頂いています」。

スープも豚骨白濁スープと鶏ガラベースのスープの2種類を取る

ICHIYUのラーメンは豚骨と醤油の二枚看板。自分の原点でもある豚骨ラーメンは、博多ラーメンをベースにしつつも臭みがないクリーミーな味わいを目指した。独学で作り上げた醤油ラーメンは、化学調味料を使わず素材の味を生かし、低温調理のチャーシューや全粒粉配合の麺など、ラーメン職人としての挑戦を随所に織り交ぜながらも、万人に愛される優しい味わいに。

「どうやったら美味しくなるのか、もっと美味しくなるはずだと日々考えています。ラーメンは自分が考えたことをすぐに試すことが出来る。毎日が改良と研究の繰り返しですが、常に上を目指していく、それがとても楽しいんです」。

『醤油らーめん』(750円)/国産地鶏に豚ゲンコツを合わせたスープには糸島産の醬油を合わせた。化学調味料は使わずにスッキリとしたコクのある味わいを目指している

店をやるなら夫婦二人でと決めていた。女性が一人でも入れるような、明るい雰囲気の店。 にこやかで優しい接客で、地元にも馴染んでリピーターも増えてきた。

紆余曲折を経て、五十歳で晴れて独立。しかし夢を叶えるのに早いも遅いもない。諦めなければ夢は必ず叶うのだ。

「まずは地元の人たちに愛される味と店を作っていきたいです。いずれは地元の佐賀でも店をやりたいですし、いつかは海外にも行けたらと。これからも諦めずに夢を持ち続けていきます」。

 

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●取材を終えて

豚骨も醤油もどちらも食べたくなる店

「ラーメンには人柄が出る」と常日頃思っているのですが、この店のラーメンは豚骨醤油どちらも、実に丁寧で真面目な味わいを感じました。それは店主の中村さんのラーメンへの向き合い方そのものなのでしょう。ちなみにこの店へ初めてお邪魔した時、骨と醤油のどちらを頼もうか迷ったのですが、豚骨ラーメン店で修業されたと聞いていたので豚骨を食べました。食べ終わって帰ろうとした時に中村さんから「次回は独学で作った醤油もぜひ食べてください」と言われてしまい、豚骨がとても美味しかったので、つい勢いで醤油もその場でお願いして二杯食べてしまいました。皆さんはそんな無理はせずに、どうぞ二回足を運ばれてください。

【ラーメン評論家 山路力也】
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な媒体で情報発信するかたわら、ラーメン店のプロデュースなど、その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中

 

 

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掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。

ICHIYU RAMEN & GYOZA

【所】福岡市博多区奈良屋町4-1 森ビル1階
【☎】092-263-1108
【営】11:00~14:30/17:30~20:30
【休】日曜
【席】11席
【P】なし
カード/不可

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