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【福岡ラーメン物語 のぼせもん|62杯目 めんとスープ Ando Noodle Gastronomic】

「何がラーメンなのか。フレンチの経験を生かし、ラーメンのあるべき姿を追い求めていきます。」

フレンチのシェフが本気でラーメンに挑んでいる。百年続くラーメンという麺料理に敬意を払いつつ、フレンチの技法でラーメンの再構築を試みる。フレンチが丼の中に閉じ込められた奇跡の一杯とは。

 

めんとスープ Ando Noodle Gastronomic

安藤寛(Hiroshi Ando)

1978年、長崎県島原市生まれ。ホテルのキッチンスタッフとして料理の世界へ。東京で7年間のフレンチ修業を経て、『ラ・ロシェル福岡』『La Maison de la Nature Goh』で経験を積み、2022年4月に独立開業

 

福岡市早良区野芥。国道263号線沿いにできた一軒のラーメン店がある。人目を引くような看板もなければ、暖簾も提灯も掲げられていない。店内を覗いてみてもラーメン店とは思えない。しかし、ここは歴としたラーメン店。ガラス窓の端には、控えめな文字で『めんとスープ』『Ando Noodle Gastronomic』と書かれている。

店主の安藤寛さんは、アルバイトでホテルのキッチンに入ったことから飲食のキャリアを始めた。その後、東京のフレンチレストランで修業を積み、福岡の人気フレンチでも経験を重ねてきたフレンチ一筋のシェフだ。そんな安藤さんが独立して開いたのは、フレンチレストランではなくラーメン店だった。

「元々ラーメンを食べるのが好きということもあるのですが、料理としてもとても興味があったんです。フレンチにはソースやスープを作るベースとなる『フォン(出汁)』がありますが、近年フレンチではフォンを取ることが少なくなっています。その素晴らしい技術をラーメンなら活かせるのではと考えました」。

『中華そば』(900円)/丸鶏がベースのスープに煮干しや昆布の旨味を閉じ込めた醤油ダレ。麺は製麺屋慶史に特注したオリジナル全粒粉麺。低温調理で仕上げた鶏チャーシューもしっとりと柔らかに寄り添う

そんな安藤さんが作る渾身の一杯は、国産の丸鶏や煮干し、昆布などを使った『中華そば』。一見、フレンチのシェフが作ったとは思えない醤油味のラーメンだ。しかし、目の前に丼が置かれた瞬間から、安藤さんの考えるストーリーが始まる。

「僕が作るものはフレンチではなくて、あくまでもラーメンであるべきと思っていますが、何がラーメンなのかということに自問自答しながら作っている感じです」。

渾身のスープは一杯ずつ小鍋で仕上げる。複雑な旨味が層を織りなす味わいは唯一無二

安藤さんが大切にしているのは「香り」と「旨味」の感じさせ方。ラーメンの丼に蓋をつけているのは、最初に香りを感じて欲しいから。時間が経過して温度が変わるに連れて、どう旨味を感じて貰うか。さらに味わいが単調にならないように、途中で味を変えるためのアイテムも工夫している。

「ラーメンという料理の難しさは、スープだけを飲んだ時、麺だけを食べた時、そして麺とスープを一緒に口に入れた時で、旨味や香りの感じ方が異なるところではないでしょうか。さらに時間によってグラデーションが生まれる。とても奥が深い料理だと思います」。

オリジナルの香味油が立体的な香りを生み出す

香りと旨味はフレンチでも重要な要素。安藤さんはフレンチで培った技術や概念をラーメンという形で表現しているのだ。食べ始めから食べ終わりまで変化し続ける香りと旨味のストーリー。それは「丼の中のフルコース」のようだ。

中華そばの味を爽やかに演出する「海苔のミルフィーユ」は、海苔でレモンのペーストとミントを挟んだもの

ラーメンという料理は百年の間で驚くほどに進化を遂げた。それは先達の多くがラーメンの無限の可能性に挑み続けてきた結果だ。安藤さんも心の中にあるフレンチのエスプリを大切にして、新たなラーメンの可能性に挑もうとしている。

「僕がフレンチという世界に魅せられた理由は、他の料理にはない『凝縮した旨味』を感じたことでした。それをラーメンに出来たらと思っています。さらに移りゆく四季の季節感もラーメンで表現していけたら良いですね」。

 

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●取材を終えて

ラーメンへのリスペクトを感じる一杯

『Goh』のスーシェフが独立すると聞いた時に、どんなレストランをやるのだろうと思っていましたが、まさかラーメン店とは。料理の世界には見えないヒエラルキーが存在しており、残念ながらラーメン店はフレンチと比べると格下に思われているのは事実です。オープンしてすぐにこの店にお邪魔して、安藤さんと色々とお話をさせて頂いてラーメンを食べた時に、 安藤さんがいかにラーメンをリスペクトして、真剣にラーメンと向き合っているかが分かりました。今後は夜に料理とラーメンをコースにした『あてとめんとスープ』も出したいとのこと。これからも野芥まで通うことになりそうです。

【ラーメン評論家 山路力也】
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な媒体で情報発信するかたわら、ラーメン店のプロデュースなど、その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中

 

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掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。

めんとスープ Ando Noodle Gastronomic

【所】福岡市早良区野芥3-14-17 チェリーハウス101
【☎】092-863-1755
【営】12:00~15:00/18:00~21:00(日曜はランチのみ)
【休】木曜
【席】6席
【P】なし
【カード】不可

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