~エディターOの読書録~ 立ち読み気分でどうぞ。♯4『この世にたやすい仕事はない』

♯4 『この世にたやすい仕事はない』
津村 記久子 著 825円/新潮文庫
都内某私立大学のメディア系学科に所属していたころ、学友の多くは1年生時からテレビ、出版、ラジオ…あらゆるメディア系企業でアルバイトをしていた。就職活動のために場数を踏むことが目的だが、「どんな媒体で何の仕事を任されているか」が、学科内のヒエラルキーに大きく関与していたようにも思う。一方私は、バイトの目的を「海外旅行の資金集め」のみとして認識しており、せっせと喫茶店バイトに勤しんでは、折を見て【ベッド 寝るだけ バイト】と検索するなどして周囲を呆れさせていた。
2学年も後期に差し掛かり、一部の友人たちは早くもメディアに見切りをつけ始めていたころ、ようやく新聞社でバイトを始め、その後は出版社へ。その間にも他メディアでの単発バイト、アパレルや歯科医院…さまざまな現場を経験したものである。当時を振り返り思うのは、「どれも総じて楽しかった」ということ。もちろん“社長が怖い”とか“暇”とか、その瞬間に感じる苦痛はあるのだが、喉元を過ぎればすぐに熱さを忘れる。労働環境や職務内容などの思い通りにならない側面ではなく、新たな学びや出合いを通じたワクワクに重心を置けることは、私の数少ない長所の一つかもしれない。それでも今も【寝るだけ バイト】で検索するのをやめられないのは、心の片隅には「たやすく稼ぎたい」という俗な願望があるに違いないのだ。

本書は、芥川賞作家・津村記久子による「おしごと小説」。14年間勤務したやりがいのある仕事に疲れて退職した後、たやすい仕事を求めさまよう36歳女性が主人公だ。“簡単な仕事”という文言につられて就いた5つの仕事先で、小説家の日常を監視カメラで監視したり、おかきのパッケージに印刷される文章を作成したり、巡回バスのアナウンス原稿を作ったり…。珍妙でマニアックな仕事内容に戸惑いながら、次第に楽しさを見出す主人公。しかし、やりがいを持って向き合うほどに「仕事と愛憎関係に陥り」、結果的に居場所を変えることになるのだ。
あまりにもエキセントリックな仕事内容に笑い、しばしば挟まれるミステリー要素にドキドキしながらも、全編を通して常にあるのは共感。そして、仕事との健全な付き合い方を模索した主人公が辿り着いた答えには感動。津村特有の細微な情景描写が読みやすさを後押しして、とても読後感の良い一冊だ。
簡単な業務であれば「たやすい」訳ではないとしても、ベッドで寝るだけのバイト(そんなバイトが本当にあるのなら)は果たしてどうだろう? 真偽のほどを確かめるためにも定期的な検索を続けたい。もしも検索ワードがヒットしたら、このコラムを引っ提げて面接へ行く予定だ。
●エディターO 千葉県千葉市出身、埼玉県川越市育ち。’21年に突如思い立って福岡へ移住し、シティ情報ふくおかに入社。もちろん、今も仕事も楽しい、大好き! 決してこれを読んでいる上司へのアピールではありません。本音です。
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