【福岡ラーメン物語 のぼせもん|74杯目 太陽軒 】
「手間暇を惜しまず しっかり味見をして、一杯一杯を丁寧に作り続けます」
福岡で長く愛されるラーメンは豚骨ラーメンばかりではない。
半世紀以上ものあいだ小倉の人たちに愛されているのは味噌ラーメン。
小倉で呑んだ締めの定番は味噌ラーメン。
フレンチの技が隠されている味噌ラーメン。

「みそラーメン』 (750円)/鶏ガラスープにオリジナルの味噌ダレを合わせた優しい味わいの味噌ラーメン。この自家製の縮れ麺がスープとマッチする。呑んだ締めに食べたくなる一杯だ

フレンチのシェフからラーメン屋のオヤジになって20有余年。 いつもにこやかな笑顔で出迎えてくれる店主の神田浩治さん。 その優しくもあり芯の強い人柄がラーメンの味にもしっかりとあらわれている
太陽軒
神田 浩治 /Kanda Kouji
1968年、 福岡県北九州市生まれ。高校卒業後、大阪の調理師学校へ進みフレンチの世界へ。 その後、家業の製麺所へ入り製麺を学び、 2001年に『太陽軒』を継ぐ
どんな街にもどんな人にも、飲んだ後に食べたい締めのラーメンがある。北九州市小倉で締めに食べるべき店と言えば『太陽軒』 である。小倉の夜の繁華街、鍛冶町で 半世紀以上ものあいだ酔客たちの胃袋を満たしてきた老舗だ。深夜にもかかわらず、常に満席の店内で手際良く鍋を振る店主の神田浩治さんは、元々フレンチの料理人だった。長年フレンチの世界で腕をふるっていた神田さんだが、ふとした巡り合わせで畑違いでもあるラーメン店を継ぐこととなった。
太陽軒【所】北九州市小倉北区鍛治町1-4-20 観音ビル1階【☎】093-531-2658 【営】 19:00~翌2:30【休】日祝日 【席】 13席 【P】なし カード/不可
「家業は祖父の代から続く製麺業 を営んでおり『太陽軒』にも麺を卸していたんです。私も父の製麺を手伝っていたのですが、ある時「太陽軒」の ご主人が高齢で跡継ぎもいないので 店を閉めるという話になったんです。私もいつかは自分で店をやりた いと思っていたので、それならば私が継ごうと」。
フレンチの経験はあってもラーメ ンは初めて。神田さんは先代のご主 人からラーメン作りと店の味を教わり、半年の修業を経て二代目の店主となったのだ。

「新しいラーメンのアイディアはたくさんありますよ。 今は手一杯で作ることは出来ませんが、他のラーメン屋さんが海老ラーメンやアサリバターを出し始めたら、新しいラーメンを出そうかなと思います」
引き継いだ当初は常連客から「味が変わった」と言われたが、試行錯誤を繰り返していく中で、一年ほどで美味しいと言われるようになった。 神田さんは教わった基本は守りながらも、長年のフレンチでの経験をタレやスープ作りに応用して改良を重ねていった。

野菜を炒めた鍋でスープとタレを合わせて仕上げるので、熱々で一体感のあるスープになる。 スープと相性バッチリの縮れ麺は祖父から受け継いだ技法で作る自家製麺。味噌ダレも数種類の味噌をスープに合うようにブレンドしている
『太陽軒』のスープは鶏ガラと野菜がベース。丁寧にアク取りをして濁らせず透明に仕上げる。そこにはフレンチのコンソメやフォンの技術も使われている。一般的なラーメンの場合、丼でタレとスープを合わせることが多いが、神田さんは鍋の中で火をかけながら合わせる。こうすることでタレとスープに一体感が生まれるのだ。


『アサリバターラーメン』(850円)/アサリの旨味とバターのコクがラーメンに奥深さを与える、神田さんのオリジナル。 塩だけでなく味噌や醤油でも味わえる。 『エビラーメン』 (850円) /フレンチの「アメリケーヌソース」を応用したペーストはトマトが隠し味に
ベースのスープにしっかりとした 旨味があるので、味噌でも塩でも醤油でも美味しいラーメンになる。『太陽軒』ではそれぞれの味にファンが ついているが、中でも人気の一杯が神田さんオリジナルの『アサリバターラーメン』だ。
「毎日毎日自分のラーメンを食べていて飽きちゃったんですよ。何か新しい味は作れないものかと、大好きなアサリをバターに閉じ込めてラーメンと合わせたら美味しかったんです。今ではこれしか頼まないお客様もいらっしゃいます」
さらに海老の殻を炒めて作るフレンチの『アメリケーヌソース』をヒントに生まれた「エビラーメン」も人気になっている。
料理の歴史は進化の歴史だ。長年愛され続けた老舗の味を守っていくことも大事だが、時代の変化に合わせて新たな味を生み出すことも重要だ。もっと美味しい味はないか、もっと新しい味はないかと模索し続けていくのは、神田さんの料理人としての矜持なのだ。

「やはり新しい料理を考えることが大好きなんですよね。もちろん新しいラーメンのアイディアもありますが、今のラーメンを作るので精一杯。これからも手を抜くことなく一杯一杯 を丁寧に作り続けていくだけです」。
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■取材を終えて
小倉の夜の記憶に残る唯一無二のラーメン
私が初めてこのお店にお邪魔した時は、ご多分に漏れず鍛冶町で飲んだ後のことでした。深夜1時を回っていたにもかかわらず、満席のお店で食べた味噌ラーメンの染み入ること。もちろんアサリバターラーメンも気になっていたのですが、それを 察した神田さんが私が食べていた味噌ラーメンにサービスでアサリバターを入れて下さいました。優しい味わいの味噌ラーメンに力強さとさらなる深みが生まれ、大満足の締めとなったことを覚えています。実は神田さんと私は同い年なのですが、常に 新しいことを考え続けているその料理人魂に敬意を表するとともに、私もまだまだ 頑張らなければと刺激を受けました。

ラーメン評論家
山路力也 / Rikiya Yamaji
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な 媒体で情報発信するかたわら、 ラーメン店のプロデュースなど、 その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中
掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。
