【福岡ラーメン物語 のぼせもん|34杯目 中華そば月光軒】
「麺だけで美味しいと言わせてみせる。
福岡の人たちの意識を変えたいんです。」
ラーメンはスープと麺で出来ている。しかし世のラーメン屋のどれほどが、スープと同じくらい麺についても語る事が出来るだろうか。ラーメン屋とは名ばかりのスープ屋になってはいないか、麺もスープも己の手で作り、自信を持って自分のラーメンを出したい。スープ屋ではない、真のラーメン屋でありたい。孤高のラーメン職人が自家製麺という武器を手に入れて帰って来た。


中華そば 月光軒 店主
望月学 / MANABU MOCHIZUKI
1967年、大分県別府市生まれ。地元の人気ラーメン店に生まれるも跡は継がず、福岡で美容師や歯科技工士の職に従事。33歳の時にラーメンの世界へ。数々の人気店を立ち上げ、2019年、新たなスタートを切った
2019年にオープンしたばかりの新店である。しかし、店主の望月学さんはこれまでに自身の店を二回オープンし、いずれも人気店にした経歴を持つベテラン。
特に2010年にオープンした店は、福岡の地でいち早く豚骨を使わないラーメンを提供、昨今の「脱豚骨」ブームの嚆矢的存在として今も人気を集めている。しかし望月さんは早々に人気店の経営権を手放し、さらに自らの理想のラーメンを追い求める旅に出た。

「『支那そばや」(神奈川)の佐野実さんが作った麺を食べて衝撃を受けたんですよ。こんなに美味しい麺があるのかと。その時に自分自身が麺について知識も技術も無いことに気付いて、ちゃんと麺を勉強したいと思ったんです」

そこで海外に多数店舗展開している旧知のラーメン店主に頼み込み、アジア各国の店舗立ち上げに携わりながら、各国で製麺の技術を学んだ。さらにその経験を生かして、海外出店するラーメン店のコンサルティングを多数手掛けた。海外での製麺経険は望月さんにとって刺激的なことだった。
「日本だと中華麺には準強力粉だとか、中華麺用の配合があるのですが、海外にはそんな常識は当然なく製粉会社が持って来る粉はバン用だったりバスタ用だったり色々なんです。それで麺を作ってみるととても面白い。そこから粉の選び方も変わって、麺の表現の幅が一気に広がりました」

そして三たび自身の店として「中華そば月光軒」を創業。これまでの店同様に、自分自身の名前から「月」の一文字を店名に入れた。新しい店のテーマはズバリ「麺」。豚骨一辺倒、スーブ至上主義の福岡のラーメン界への挑戦でもある。
「福岡ではスープのことばかり語られて、麺が語られることはほとんどありません。それはラーメン屋さんもお客さんも麺を軽視しているとも言えるし、美味しいと唸るような麺が無いとも言えます。だから今度のラーメンの主役は「麺」。スープじゃなく塩だけで食べて美味い麺を作りたいと思っているんです」

メニューによって麺を打ち分ける。その中でも望月さんが今回特に力を入れているメニューが「つけ麺」だ。つけ麺にはつけダレの他にいくつかの薬味が添えられるが、まずは塩をつけて食べてみて欲しいと語る。しっかりと茹でられた麺を頬張れば、小麦の香りと甘みが一気に口の中に広がり鼻腔を抜けていく。これまでの福岡のラーメンにはなかった、新たな麺の誕生だ。

麺の味について語られることがほとんどなかった福岡の地で、望月さんの麺は評判を呼び、オーブン一年足らずで人気店となった。

「福岡はバリカタ、替え玉の麺文化ですよね。しかし、ラーメンの麺はそれだけじゃない。太い麺もあればしっかり茹でた麺の美味しさもあるということを、福岡の人たちにも知って欲しい。この麺で福岡のラーメン屋さんやお客さんの麺の意識を変えていきたい。本気でそう思っています」

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■取材を終えて
ラーメンの在り方を常に模索する「求道者」
私が望月さんと出逢ったのはもう何年も前になりますが、何度もプライベートで食事や酒を酌み交わす中で、いつも話すのはラーメンの在り方についてでした。既存のラーメンをただ善しとするのではなく、常識に対して疑問を感じ、意識を変えてさらに進化させていかなければ、ラーメンに未来はない。作り手と食べ手と立場は違えど、真剣に語り合える数少ない「同志」のような存在です。そんな望月さんが満を持してまた厨房に立ち、自らの理想のラーメンを世に問おうとしています。果たして福岡の人たちの麺への意識は変わるのでしょうか。ぜひ一度食べてみて下さい。好きか嫌いかは別として、少なくとも今まで持っていた麺へのイメージはガラリと変わるはずです。

ラーメン評論家
山路力也 / Rikiya Yamaji
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な 媒体で情報発信するかたわら、 ラーメン店のプロデュースなど、 その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中
掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。
中華そば 月光軒
【所】福岡県福岡市中央区天神2-12-1 天神ビル B1F
【☎】092-710-7779
【営】11:00~15:00 / 17:00~21:00
【休】月
【席】12席
【P】無
※移転後の情報です
