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【インタビュー】大森靖子「“全てのものを音にするぞ”という気持ちで臨みます」

自身の原点とも言える弾き語りアレンジ中心のアルバムをリリースした大森靖子。博多百年蔵でのライヴを控え、まずは福岡での懐かしい思い出を話してくれた。

大森:4〜5年前、インディーズの頃に天神コアの地下に迷い込んだことがあって。ギター持って全財産3000円ぐらいで『正福』に入ったら、お店の人から「なんかやってるのか。CDとかないのか」って言われて、CD買ってご飯タダにしてくれたんですよ。さっきちょうどその店の別の店舗に行こうとしていて、「ココはあの時のあの店だ! 」と思って。

 

—『正福』の懐の深さを感じますね。
大森:その思い出が福岡にはあります。

 

—さて、弾き語りアレンジのアルバム『MUTEKI』ですが、今改めてパッケージにされた理由はなんでしょうか。
大森:インディーズの時に「音源よりライヴが良いよね」と言われることが多くて、当時は音源というものを「ライヴの時に売るもの」という認識でいたんですね。録音とはそんなに向きあっていなくて、知識もそんなにない状態でやっていたんですけど、メジャーデビュー後はいろんな音を入れたりして、録音物はライヴとは違う別の角度からのスイッチが必要だなと思っていたんです。バンドじゃないと伝わりにくいステージやフェスもあったりするんですけど、『TOKYO BLACK HOLE』を作ったあたりから録音物との向き合い方が確立されてきて。その時々にやるべきことを優先してきた中で「弾き語りのアルバムも欲しい」という声も大きくなっていて、そろそろ弾き語りで一曲一曲、一人ひとりを説得していくような届け方をしていけるタイミングに入ってきたかなというのが一番大きな理由です。

—今回のアルバムは新曲2曲含めて全部で20曲収録されているじゃないですか。その上でさらに購入者は新たに3曲ダウンロードできる仕掛けがあるし、DVDもボリュームたっぷりで。なんてサービス精神旺盛な方だろうというのが伝わってきます。
大森:お得な気持ちになりたいじゃないですか(笑)。弾き語りアルバムにも新曲入ってるんだ、とか。見方を固定されるのが好きじゃなくて、自分も人に対して固定的になることが好きじゃないので、情報量は入れたいんです。時間が経つにつれ言いたいことも増えてきたりとか、減っていったりもするし、そういうことに対して自由度が高くありたいなと。私が与えてリスナーが享受する側という感覚はないかもしれないですね。モノ作ってるのは私なんですけど、「こう作ったモノをこう聴いてほしい」みたいな強い気持ちが全くなくて。私が提示した…たとえば「こういう新単語作りました」とか「新しい曲作りました」というのに、「僕はこう感じました」って返ってきたら「それ正解」と言える人でありたいんですよ。だから、「絶対こうじゃなきゃダメだよ!」みたいに詰めたくないというか。

 

—リスナーに委ねたいということでしょうか?
大森:曲は最初の提示でしかないから、自分が思ってなかったものを持ってきてくれる方が楽しいというのがあって。それに感動したいし、もっと大きくなりたい。完全に自分が曲で思想とか与える側になったら結構狭くなっちゃうじゃないですか。

 

—フラットな姿勢で、ファンを信頼しているんですね。
大森:みんな面白いですからね。面白い人しか来ないから(笑)。

 

—『MUTEKI』には比較的最近の曲も弾き語りアレンジで収録されていますが、大森さんの活動を見ていると消費の速度がとてもスピーディですよね。そのことをポジティブに捉えているのでしょうか。
大森:自分の感覚で言えば特別早いことでもなく、曲が生まれるままに出していけるからいいんですけど、むしろ不安になります。こんなに消費できるのだろうかとか(笑)。「新曲良かった」って言われても、どの新曲だろうかみたいな(笑)。全部噛み砕く暇あるのかな、と。スピード感が偶然時代に合ってるのかもしれないです。

 

—言葉選びもそうなのかなと思って。歌詞には5年後、10年後には使われてなさそうな言葉がバンバン出てきますよね。
大森:それは、すぐリリースできることがありがたくて。アイドルのゆるめるモ!の『うんめー』という歌を書いた時に、「ポテチコンビニから消えた」って歌詞から始めたんですよ。その状況も一カ月も続かないじゃないですか。結構アイドルの方は近々のスケジュールで制作することが多くて、すぐリリースできて本当にありがたいなと(笑)。

 

—ポテトチップスが販売再開する前に出さないといけないですもんね(笑)。
大森:その世の中のスピード感と自分の捉えたいもののスピード感、そこに強い共感性があるわけじゃないですか。思い入れとか、そういうのは見逃したくないし。後になって「こういうのあったな〜」とかあるし、そういう資料的なものになっていけばいいなと。言われてないこととか、作られてないものとかが空気中に潜んでいたり人の中にあることが結構イヤなんですよ。もっといっぱい、すべて表現されているものを増やしたい。単純に「これが言語化された」とスッキリするだろうし。そういうことが楽しいのが一番大きいです。

 

—みんなのモヤモヤをキャッチしたいということですね。ちょっと音楽以外のこともお聞きしたいんですが、30歳になられた心境はなにかありますか?
大森:本当に早くなりたかったんです。20代半ばでくたばるかなと思っていたので、この先は自分で自分を実験するような気持ちもあるし。30からの方が、自分主体の人間的な魅力とか積み重ねたなにかとかが評価されていく機会がもっと増えるんじゃないかなって期待していて。期待感の方が大きいです。

 

—30代の大森さんって、ちょっとイメージ湧かないなと思っていたんです。
大森:自分は青春時代から、大人のことを大人と見てなかった…なめてたんで(笑)。「誰も大人なんていないじゃん」と思っていました。みんなただの人間。積み重ねた年月の分、なにかあるかもしれないけど、その濃さは人によって違うだろうから、高校生でも大人より考えが大人の人はいるし、そうじゃない人もいるし。着実に経験を積み上げてきた素晴らしい人もいるし、という。その結果イコール年齢ではないなって思ってきたから。でも若いと「若いね」と言われるわけだから、その「若い」がなくなるのが楽しみという感覚ですね。

 

—なにかやってみたいことはありますか?
大森:日本の可愛い女の子全員追いたいんで、本当に忙しい(笑)。

 

—それは忙しいですね(笑)。
大森:超忙しいんですよ、自分が知らない可愛い女の子とかいるのイヤなんで(笑)。そういう人の個性とかも活かせることをやっていきたいし、プロデュースもやっていきたいし。

—ライヴについてもお伺いしたいんですけど、博多百年蔵とは風情があって良い場所を選びましたね。
大森:建築美を意識して作った建物というのは人の手垢とかが付きやすいと思うので、そういうところに人が集まって音楽を生むという…聴いてもらうというより生むという感じなんですけど、そこに一緒になにかを作るという感覚で勝手にライヴをやっていて、そういう意味合いにおいてはライヴハウスより断然楽しみです。

 

—バンドで臨む時と弾き語りで臨む時は、精神的に違いますか?
大森:違いますね。バンドの方がやることが決まってしまうので。メンバーがいたり、セットを決めたり、照明もちゃんとしなきゃいけないとかあるので、細かなやりとりをお客さんとしていく中で完成度を高めていくというイメージがあるんですね。前回のツアーでは最後の『アナログシンコペーション』という曲までの流れを作り込んだ部分があったので、それをちゃんとやるぞって気持ちでやるんですけど、弾き語りは野ざらしというか(笑)、行けばどうにかなる。行ったところで、全身研ぎ澄ませて全てのモノを音にするぞっていう作業をする感覚なので、結構違いますね。

 

—大森さんの弾き語りは心臓鷲づかみにされると言うか、よりダイレクトにパフォーマンスがメッセージが響いてきます。
大森:その日にしかないですからね。2度同じ体験を作ろうと思ってもできないですから。たとえば声が枯れていたとしても、枯れていた方がいい曲もあるじゃないですか。来てもらった人たちのテンションで変えていったりできるのが楽しいので。その場に行ってなにが起こるかわからないという状態が一番ワクワクしますね。

リリース情報

発売中 Album『MUTEKI』
avex trax/DVD付5724円(CDのみ3240円)
大森靖子オフィシャルサイト http://oomoriseiko.info/

ライヴ情報

日程/12月7日(木)18:30
会場/博多百年蔵(福岡市博多区堅粕1-30?1)
料金/全席自由3800円 ※SOLD OUT

※12月9日(土)熊本公演あり(SOLD OUT)

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