【福岡ラーメン物語 のぼせもん|92杯目 中華そば ひかり 】
「この町に根付いたラーメン屋になりたい。 ただひたすら毎日 ここで作り続けます」
日常の中にあるラーメンを作りたい。
特別なご馳走ではなく、日々の生活に寄り添ったラーメンを作る。
豚骨ラーメン一筋の男が作り上げたのは、 優しい味わいの醤油ラーメン。
ふと食べたくなるような中華そば。

『中華そば』(750円)/豚骨、鶏ガラベースの旨味あふれる清湯スープに、ボリュームある太い縮れ麺。 ノスタルジックな中華そばをブラッシュアップして、 毎日でも食べたくなる味を目指した醤油ラーメン

「一人で仕込みから調理、接客すべてをやっているのでお客さんの存在やありがたさをヒシヒシと感じます。 名島の町に根付いた店にしていきたいですし、 名島の人にずっと好きでいてもらえるラーメンを作り続けます」
中華そば ひかり
齋藤潤哉 /Saito Junya
1985年静岡県浜松市生まれ。高校時代に地元のラーメン店でアルバイトを始めラーメンの世界へ。 高校卒業後に福岡へ移住し『博多一風堂』 へ。大名本店店長やマネー ジャーを歴任した後、 2022年に退職。2024年に『中華そば ひかり』を創業する
福岡市東区名島。博多湾に面した住宅街が広がるこの町に、真新しい一軒のラーメン店が出来た。店主の齋藤潤哉さんは、20 年にわたり豚骨一筋で腕を磨いてきたべテランのラーメン職人。10代の頃から将来はラーメン店を営むことを目標にしてきた。

「厳選素材を使ってどうこうというラーメンも良いのですが、僕は麺が多いとか最初から卵がのっているとかチャーシューが何枚とか、お客さんにとって安くてお得な、 一発で分かる価値のあるラーメンを作りたかったんです」
「僕は音楽が好きなのですが楽器が弾けないので、ミュージシャンの道は諦めたんです。同じように自分自身を表現出来るのはラーメンではないかと思って、高校卒業後にラーメンの世界へ飛び込みました」。
学生時代、部活動の大会で訪れた博多で食べた豚骨ラーメンの味 が忘れられず、高校卒業後に生まれ育った静岡を離れて一人福岡へと移り住んだ。色々と食べ歩きをする中で『博多一風堂」と出会い、アルバイトとして働くことになった。その後社員になって、一風堂の総本山である大名本店の店長を任された。 「本店はやはり僕にとっても憧れの店でしたから、覚悟と気合が入りましたね。僕の手でさらに磨き上げて良いお店にしたいと思って、毎日頑張りました」。

中華そば ひかり【所】福岡市東区名島3-27-3【営】 11:00~17:00 (土・日曜~20:00)
【休】月曜 【席】7席【P】 なし カード/不可
その後、マネージャーに昇格して県内外の店舗を任されるようになり、着実にステップアップしていった齋藤さん。順風満帆だと思われたが、そんな時に訪れたのがあのコロナ禍だった。
「一生懸命やろうと思っても、知事に明日から営業時間は8時までだって言われたら、僕たちはもう何も出来ないじゃないですか。無力さというか、理不尽さのようなものが 募っていって、ずっとモヤモヤしながら仕事をしていたんですね。これはもう覚悟を決めて自分でやらないといけないんじゃないかと。こんな状態では一風堂にも迷惑をかけてしまうと思って、辞めて自分の力で店をやる決意をしました」。

豚骨ラーメンに魅せられて福岡にやって来て、長年豚骨ラーメンを作り続けてきた齋藤さんだが、自らの店で出すラーメンは敢えて豚骨ではなく中華そばに決めた。
「豚骨ラーメンの美味しい店は福岡にたくさんあるじゃないですか。 福岡の人にとって醤油そのものは慣れ親しんでいる味ですし、豚骨以外にもこういうラーメンがあるということを知って欲しくて、敢えて中華そばを出そうと思いました」。


『塩中華』(750円)/塩ダレのキレと煮干しが香るスープは、醤油とはまた違った表情をみせる。『チャーシュー麺 (大)』 (1050円)/井一面に自慢のチャーシューがビッシリとのった一杯。 麺も1玉半と通常の博多ラーメンの倍以上のボリューム
齋藤さんの作る中華そばは、昔からあるような誰もがホッとする優しい味わいがする。高価な原料は使わずに丁寧な仕事で美味しく仕上げ、麺も多くラーメン一杯で満足ができるように作られている。

麺は福岡の老舗製麺所『青木食産』製の太縮れ麺。 一般的な博多ラーメンよりも量が多く食べごたえのあるボリュームを目指した。 スープは豚ゲンコツと鶏ガラに豚肉の旨味も。 煮干しも加わることで深みのある味わいに仕上がっている
いつからだろう、ラーメンが気軽に食べられなくなったのは。材料費や人件費も上がりラーメン一杯の値段も上がった。人気店ともなれば行列に並ぶのは当たり前。美味しいラーメンを食べるための敷居は日々高くなっている。 「ラーメンって特別な食べ物ではなくて、日常の生活の中にあるものだと思うんですよ。近所の人がふとラーメンでも食べようか、と思った時にフラッと立ち寄れるような。そんな存在のラーメン屋さんになれるよう、ここでずっと作り続けていきます」。
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■取材を終えて
福岡にありそうでなかった味わいの中華そば
齋藤さんとは一風堂の店長時代からなので随分と長い付き合いになりますが、
独立も驚きましたし豚骨ラーメンではなく中華そばで勝負するというのも驚きました。 福岡は今「非豚骨」ブームで、醤油ラーメンが随分と増えてきましたが、その多くは今の醤油ラーメンのトレンドに沿ったようなオシャレなもの。 しかし本来のラーメンとは気取らずに普段使いが出来る日常の食べ物のはず。 齋藤さんが作る中華そばは多くの人が懐かしさを感じるような、 昔ながらのノスタルジックな雰囲気を持っています。それを齋藤さんの長年の経験と技術で、今のラーメンに負けないような味わいに昇華させている。こういう醤油ラーメンって他にありそうでなかなかないものです。

ラーメン評論家
山路力也 / Rikiya Yamaji
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な 媒体で情報発信するかたわら、 ラーメン店のプロデュースなど、 その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中
掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。
