安心院には、明治から現代にかけて商家や蔵の壁面を彩った美しい鏝絵が今も数多く残されています。
町を歩きながら、先人たちの技と想いに触れてみませんか。
鏝絵の魅力を案内してくれたガイドさんをご紹介します
安心院町の歴史や鏝絵文化に詳しく、地域の魅力を発信し続けているガイドさん。 ひとつひとつの鏝絵に込められた意味や職人の想いを丁寧に案内してくれます。
第13回国民文化祭「鏝絵の祭典」の開催を記念し、「安心院の鏝絵文化を未来へ残したい」という想いから制作された作品です。 もともとは役場に飾られていた古い鏝絵でしたが、この場所へ移設され、新たな姿として受け継がれています。 描かれているのは、福をもたらす七福神と、不老長寿を意味する松。神様たちが集う姿には、「たくさんの幸せがありますように」という温かな願いが込められています。 安心院の鏝絵文化を未来へつなぐ、“福を呼ぶ鏝絵”です。
家が朽ちかけていた場所に残されていた、明治時代の貴重な鏝絵です。 地域の鏝絵ガイドさんが「この鏝絵を残したい」と何年も所有者にお願いを続け、ようやく譲り受けることができたそうです。 移設作業は簡単ではありませんでした。鏝絵の周囲を木材や発泡スチロールで丁寧に保護し、二階の妻壁から慎重に剥がして地上へ降ろします。通常は大工さんによる作業ですが、この鏝絵は特に大きかったため、クレーンを使って取り外す必要があり、費用も通常の3倍以上かかったそうです。 その後も展示場所に苦労しましたが、現在は新しく整備された安心院複合支所に展示され、多くの人が見ることができるようになりました。地域の人々の「残したい」という想いによって守られた鏝絵です。
明治時代に制作され、現在は安心院高校で大切に保管されている「保存鏝絵第12号」です。 もともとは古い土蔵の戸袋にあった作品で、「地域の文化を守りたい」という想いから移設されました。 不老長寿を願う「松」と、勇気・飛翔・前進を象徴する「鷹」が、美しい色彩とともに力強く表現されています。 若い世代へ伝統技法の素晴らしさや文化財の価値を伝える、安心院の歴史を未来へつなぐ貴重な鏝絵です。
左官の名工・佐藤本太郎が制作した代表作のひとつで、鯛を釣り上げる瞬間が躍動感たっぷりに表現されています。 鯛の尾は勢いよく跳ね上がり、立体的に浮き出すような迫力があります。さらに注目したいのが釣り竿。本物の竹を使い、あえて湾曲させることで「大物を釣り上げる重み」を表現しています。 鏝絵でありながら、今にも動き出しそうな生命感があり、佐藤本太郎の技術の高さを感じられる作品です。
「鶴は千年、亀は万年」といわれるように、長寿や繁栄を願う縁起の良い鏝絵です。 松も古くから不老長寿の象徴とされ、この作品には「いつまでも元気に、豊かに暮らせますように」という願いが込められています。 掛け軸などでは松の木に鶴が止まる姿が描かれることもありますが、実際には鶴は樹木に止まることができないため、この作品のような表現こそ自然に近い姿だともいわれています。 昔の人の知恵や願いが込められた、味わい深い一枚です。
この鏝絵には、家族への願いと暮らしの背景が込められています。 「松」は不老長寿を願う意味と、平松家の“松”にちなんだもの。「猪」はご主人の干支で、猪突猛進のように力強く進んでいけるよう願いが込められています。 そして「墨つぼ」は、大工の棟梁だったご主人の仕事道具です。 ひとつひとつに家族の想いや人生が重なっていて、どこかほほえましさを感じる作品です。
およそ100年前の作品ではないかといわれる、貴重な招き猫の鏝絵です。 左手を挙げる猫は「お客さんいらっしゃい」、右手を挙げる猫は「お金を持っていらっしゃい」という意味があり、本来は対になっていたそうです。 別府の知人から譲り受けたもので、相棒となる左手の招き猫は現在、県立博物館に所蔵されているほど価値の高い作品だといわれています。 また、材質は一般的な漆喰ではなくセメントですが、鏝(こて)で作られていることから、鏝絵文化の広がりも感じさせてくれます。
「松」は不老長寿、「鷹」は鳥類の王者として家の繁栄を願う、縁起の良い鏝絵です。 松の木肌や鷹の羽根には、鏝を巧みに使った立体的な技法が施されており、職人の高い技術力を見ることができます。 特に驚かされるのは色彩です。100年以上経った現在も、当時の色がほとんど褪せることなく残されています。 もともとは隣町・院内町の佐藤家二階の戸袋にあったものを、現在の場所へ移設したと伝えられています。
松は不老長寿、波は火除け、鶴は長寿を意味し、縁起の良いものが詰め込まれた鏝絵です。 一部が剥がれていたため、「鶴亀だから亀が必要だろう」と考え、地域の方が修復を行いました。 修復したのは、土地提供にも協力した「ロータス伊藤」の社長。鏝絵制作は未経験ながら、「車のパテと同じ」と言いながら仕上げたそうです。 ところが後になって古い写真を確認すると、実は“鶴が二羽”描かれていたことが判明。つまり本来は「鶴と鶴」だったという、少しユニークなエピソードが残っています。
漆喰本来の白さを活かしながら、美しく編まれた竹籠に牡丹が生けられた上品な作品です。 派手さではなく、漆喰の質感や余白の美しさが際立ち、鏝絵ならではの繊細さを感じさせます。 「百華草庵」は店の屋号であり、暮らしと美意識が感じられる一枚です。
宇佐市指定史跡「重松家別邸」に残る、安心院鏝絵を代表する最高傑作のひとつです。 明治17年、左官の名工・長野鐵蔵によって制作されました。 三階の壁面(戸袋)には、伝統技法による立体的な鏝絵が残され、左側には「水の神・火除けの神」とされる龍と家紋の三階松、右側には日本一の山である富士山が描かれています。 また、ここから見える由布山は「豊後富士」とも呼ばれ、地域の風景とも重なる象徴的な作品です。 140年以上が経過した今なお鮮やかな色彩を保ち、安心院の鏝絵文化の高さを物語っています。
壁いっぱいに描かれた大きな富士山には、「日本一の商売繁盛を願う」という想いが込められています。 この家の主であった重松家は、江戸末期から明治初期にかけて地域発展のために多くの私財を投じた豪商でした。 また、この場所から見える由布山は「豊後富士」とも呼ばれ、美しい姿を見せます。鏝絵の富士山と実際の由布山を重ねることで、より味わい深く感じられる作品です。
老舗蔵元「縣屋酒造」を彩る、ユーモアと温かさに満ちた鏝絵です。 樽の前で麹を混ぜる毘沙門天の杜氏、仲良く酒を酌み交わす布袋様と弁財天。実はこの神様たちは、蔵元の社長ご夫妻をモデルに制作されたそうです。 制作時には屋根瓦の上に足場を組み、垂直の白壁へ直接漆喰を塗り重ねる、昔ながらの本格技法で仕上げられました。 伝統技術の中に、蔵元らしい親しみや家族への愛情が感じられる、見応えのある名作です。
唐獅子(からじし)は、現在でいうライオンのこと。古くから文殊菩薩(学問の神様)のお使いとされ、知恵や学びの象徴として描かれてきました。 この鏝絵には、賀来家の子どもたちが賢く育つようにという願いが込められています。また、「唐獅子牡丹」という言葉があるように、唐獅子は縁起の良いモチーフとして親しまれてきました。 三角形になった壁の部分は「妻壁(つまかべ)」と呼ばれ、この限られた空間に立体感ある表現を施す職人技も見どころです。 作者の高吉は、地域を渡り歩いて仕事をしていた「流しの左官」として知られています。
安心院を代表する左官の大棟梁・長野鐵蔵が、明治23年に手掛けた大変縁起の良い鏝絵です。 もともとは個人宅の蔵の戸袋を飾っていた作品でしたが、平成16年、地域で保存していこうという想いから取り外され、地元鏝絵師の手によって約7か月をかけて丁寧に修復されました。 中央には力強い鷹、上部には富士山、下部には茄子が描かれ、「一富士・二鷹・三茄子」という初夢の吉兆を象徴しています。 名工の技と現代の修復技術、そして地域の保存活動が重なり合って受け継がれた、安心院の至宝ともいえる作品です。
ユーモアたっぷりの鏝絵として人気なのが、この「恵比寿・大黒・鯛の三番叟」です。 三番叟とは、もともと文楽や能で演じられる縁起の良い舞のことですが、この作品では、なんと恵比寿様が鯛に踊りを舞わせています。 よく見ると、鯛は烏帽子(えぼし)をかぶり、鈴まで持っています。さらに福徳の神様である大黒天が、大きな打ち出の小槌を振り上げ、場を盛り上げています。 縁起物でありながら、どこか遊び心があり、見ている人の気持ちを和ませてくれる作品です。
下毛公民館の新築記念として制作された、地域の安寧を願う鏝絵です。 安心院の展望台に腰掛けた布袋様が、豊かな安心院盆地を見下ろしながら、長いキセルで一服する姿が描かれています。 「下毛の里に福が留まりますように」という願いが込められており、背中の大きな袋にはたくさんの幸せが詰まっているといわれています。 鮮やかな山並みと穏やかな笑顔が印象的で、見ている人までほっと心が和らぐような温かな作品です。
昔の宮中の女性たちは、十二単(じゅうにひとえ)と呼ばれる何枚もの着物を重ねて身にまとっていたといわれています。 この鏝絵では、その優雅な姿が美しく表現されており、桜の花びら一枚一枚まで丁寧に鏝で仕上げられています。 さらに面白いのが、描かれた女性のやさしい表情。地元では「作者の智子さんにそっくり」ともいわれており、地域の人との会話が生まれる鏝絵のひとつです。
平成を代表する女流鏝絵師・江藤智子さんの愛馬(ポニー)をモチーフにした作品です。 江藤さんは乗馬インストラクターの資格を持つほどの馬好きとして知られ、その経験から生まれる馬の表現には、生き物としての躍動感や優しさが見事に表れています。 全国漆喰鏝絵作品コンクールでも数々の受賞歴を重ね、平成19年には最優秀賞を受賞。“日本一の鏝絵作家”とも呼ばれる存在となりました。 作者自身の愛情と人生が重なった、特別な一枚です。
ヤマサ旅館の壁に作成されたもの。
「佐藤印刷」の壁面に掲げられた、凛々しさの中に遊び心が光る鏝絵です。 ご家族に寅年生まれの方が多かったことから、家族を守る魔除けの願いを込めて制作されました。 白漆喰を活かし、顔料をほとんど使わずに仕上げられているため、虎の立体感や質感が際立っています。 さらに注目したいのが、口にくわえた「Print」と書かれた紙。印刷会社ならではのユーモアが込められており、職人技と企業らしさが美しく調和しています。
一見すると猫のようにも見えますが、こちらは立派な“虎”。もちろん、魔除けの意味が込められています。 2008年の暮れ、この場所へ移設されました。もともとは約500m南にある折敷田の勝見さん宅(安心院館)の新築時に譲り受けたもので、築110年を超える佐藤家にふさわしい鏝絵として受け継がれています。 地域の中で「壊す」のではなく「残して移す」という文化があることも、安心院の鏝絵文化の魅力です。
「安心院印刷」の壁面を彩る、遊び心あふれる鏝絵です。 社長ご夫妻が鼠年生まれであることから制作され、「子孫繁栄」の願いが込められています。 印刷会社らしく、大きなGペンとインク瓶が描かれているのも特徴。主役の鼠は着物に高下駄を履き、明治時代の“バンカラ風”の装いでユーモラスに表現されています。 家族への願いと会社らしさ、そして職人の遊び心が詰まった、街歩きを楽しくしてくれる一枚です。
色の塗られていないシンプルな鏝絵です。色がないからこそ影で鏝絵が際立ち美しいです。
老舗茶店「渡辺園」の軒先を彩る、物語性豊かな鏝絵です。 昔話「分福茶釜」を題材に、茶釜に化けた狸が綱渡りをする姿が、どこか愛らしく描かれています。 店主には「おいしいお茶を飲みながら、ほっと一息つき、幸せを持ち帰ってほしい」という願いが込められているそうです。 また、「福を分ける」という意味を込め、あえて“分福”の文字が使われているのも印象的。お茶の香りのように、じんわり心を和ませてくれる温かな作品です。
屋根下の三角形の空間「妻壁(つまかべ)」を巧みに活かした、美しい構図の鏝絵です。 鮮やかな赤で描かれた江藤家の家紋「三つ引紋」を中心に、左右には波を蹴るように駆ける白兎が立体的に表現されています。 「波」には火災除け、「兎」には子孫繁栄の願いが込められており、暮らしへの祈りが詰まっています。 白漆喰に赤と青が映える色使いは、今見てもモダンで、当時の高いデザイン性を感じさせる作品です。
鏝絵を描く職人を鏝絵にするという変わった作品。比較的最近に作られたそうで、足の色が剥げています。
安心院の鏝絵巡りをする観光客向け無料駐車場(最明寺横・下毛地区公民館周辺)に設置された展示作品です。 安心院町内に点在する伝統的な鏝絵のレプリカや、地元職人による漆喰アート作品が並び、鏝絵文化をわかりやすく紹介しています。 中央には、安心院の特産品である「ぶどう」と「ワイン」が色鮮やかに描かれ、安心院らしい豊かな風土を感じることができます。 鏝絵巡りのスタート地点としてもおすすめのスポットです。
家族旅行村展望台に腰掛けた布袋様が、安心院盆地を見下ろしながら長いキセルをふかし、「下毛の里に福来留まる」と地域の安寧を願っている姿が描かれています。 下毛公民館の新築記念として制作された作品で、布袋様の袋には「たくさんの幸せが詰まっている」と伝えられています。 地域を見守り、福を呼び込む存在として、どこか親しみを感じさせる鏝絵です。
博多人形をモチーフに、理容店の看板として作られた、思わず笑顔になる鏝絵です。 やんちゃな弟を兄が押さえつけながら、無理やりバリカンで髪を刈るというコミカルな場面が描かれています。 虎刈りにされた弟の手には、昔懐かしいベーゴマが握られており、子ども時代の風景を感じさせます。 実はモデルとなった兄弟は、現在ともに理容師として活躍中。家族の物語まで込められた、地域らしい温かさを感じる作品です。