【福岡ラーメン物語 のぼせもん|35杯目 らーめん陽八】
「二、三日後にまた食べたくなる味。そんなラーメンを目指しています。」
いつからだろう、ラーメンが「流行」に敏感になったのは。世の中のトレンドを反映させたラーメンたちは、数年後には時代遅れになって見向きもされなくなり、いつしか淘汰されていく。そんなラーメンが使い捨てとなった時代に、流行り廃りに囚われることのない、日常に寄り添ったラーメンが生まれた。きっと十年後も二十年後も変わらぬ姿で在り続ける一杯がここにある。


らーめん陽八 店主
伊藤陽一 / YOICHI ITOH
1985年、福岡県福岡市生まれ。子どもの頃から料理に興味を持ち、大学時代に「太宰府八ちゃんラーメン」でアルバイトとして入る。その後、社会人の経験を経て「らーめん八」で修業を積み、2019年に独立開業
豚骨ラーメン一辺倒だった福岡の街に「非豚骨」のトレンドが興って久しい。醤油ラーメンや辛い麺、つけ麺など、従来の豚骨ラーメンとは違ったスタイルのラーメン店が今も増え続けている。
その中で豚骨ラーメンを作るのは、逆に勇気が要ることであり、流行への挑戦でもある。2019年にオープンした「らーめん陽八」のラーメンは、誰もが懐かしさを覚えるような、ノスタルジックな面持ちの一杯だ。
店主の伊藤陽一さんは、子どもの時から大の料理好き。幼稚園の頃には卵焼きなどを自分で作り、小学生になるとうどんを打ち始めた。

さらに調理クラブに所属して、料理マンガや料理雑誌のレシピなどを再現するなど、将来は自分で飲食店をやりたいという夢を持っていた。


その後、大学に進学してコンビニエンスストアでアルバイトをしていた時に運命の出会いがあった。「いつも差し入れを下さる常連のお客さんが「太宰府八ちゃんラーメン」の女将さんだったんです。アルバイトを探していらっしゃったので、やりたいと手を挙げました」。
大学時代はずっとラーメンの日々。いつしかラーメンが自分の生活の一部となり、飲食店をやりたいという夢とラーメンが繋がった。その後、社会経験を積むためにメーカーに就職し、6年間のサラリーマン生活を経て『らーめん八」で本格的にラーメン修業に入り、4年後に子どもの頃からの夢であった自分の店をオープンさせた。

「ラーメンは人々の生活の一部になっている食べ物だと思うんです。お腹が空いていたり疲れていたり、無表情で入って来られたお客さんが、ラーメンを食べた瞬間に表情が変わり、笑顔で帰っていかれるんです。だから自分の店を作る時には、厨房からお客さんの顔が見える規模感の店にしようと決めていました。誰が作っているか、誰が食べているかが分からないのが嫌なんです」。
「非豚骨」の時代に豚骨ラーメン店をオープンさせた伊藤さん。自分が大好きな修業先の味を作りたい。自分の好きなラーメンをお客さんに食べてもらいたい。だから豚骨ラーメンなのだ。
「色々な豚骨ラーメンがありますが、僕は師匠の作る味が一番好きなんです。なので、世の中の流行に囚われることはありませんが、味付けについてはその時代や年齢に合ったものがあるので、今の味が完成形とは思っていません。



毎日試行錯誤を繰り返しながら、時代に合わせていかねばならないと思っています」。
インパクトのあるビジュアルや濃厚な味のラーメンがもてはやされる中、伊藤さんが作るラーメンは見た目も派手ではないし、味わいも優しい。老若男女が好み、いつの時代にも愛されるであろうラーメンだ。
「地元のお客さんが本当に良い方ばかりで、ずっとこの街に根付いた店で在り続けたいと思っています。地元の方たちの日常の中で、食べてから二、三日後にまた食べたくなるようなラーメンを作っていきたいです」

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■取材を終えて
地に足の着いた姿勢が反映されたラーメン
2019年に福岡市内でオープンしたラーメン店のほとんどを食べに行っていますが、個人的に一番印象に残ったラーメン店がこの店でした。メニューもラーメン、焼飯、餃子、ご飯だけ。チャーシュー麺すら置かない潔さ。そして世の中の流行に迎合しない覚悟すら感じさせる、ノスタルジックな設計のラーメン。仕事柄、流行に乗ったラーメンも多く食べていますが、その大半はブームが去れば消えていってしまいます。しかしこの店とこのラーメンは、十年後や二十年後にも同じ佇まいと同じ味できっと存在しているはず。30代の若い伊藤さんが、今このラーメンを作ってくれていることに、福岡ラーメンの明るい未来を感じることができ、嬉しくなりました。

ラーメン評論家
山路力也 / Rikiya Yamaji
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な 媒体で情報発信するかたわら、 ラーメン店のプロデュースなど、 その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中
掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。
らーめん陽八
【所】福岡市博多区寿町3-2-1東拓壱番館1階
【☎】092-592-7355
【営】11:30-14:30 / 18:00-22:00
※スープがなくなり次第終了
【休】木曜、第1・3水曜
【席】15席
【P】なし カード/不可 喫煙/不可
