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福岡在住の作家・町田そのこさんインタビュー

7月末に新潮社より発売になった小説『コンビニ兄弟—テンダネス門司港こがね村店—』。著者の町田そのこさんが福岡在住ということで、話を聞く機会を得た!

—小説の舞台が北九州の門司港という設定で、地名をそのまま使用しているので親しみやすく、情景も浮かびやすかったです。

町田「どこまで描写しようか迷ったのですが、実際の地名が小説の中に出てきたら私が読者だったら楽しいかな、と思いまして。読者が小説を読んで『聖地巡礼』のように、門司港のガイドブックのような感じで使っていただけたらうれしいです」。

—門司港の観光大使に任命されちゃうかもしれませんね! 紀伊國屋書店福岡本店の書店員さんの大プッシュもあったり、幸せな作品です。

町田「本当にありがたいです! 以前KBCラジオに出演させていただいたんですが、沢田幸二さんも応援してくださって。福岡を舞台にした作品は初めて書いたんですが、本当にこんなに地元の方にも応援していただいた作品は初めてです!」

—物語の中心となるコンビニの店長さんは、とても個性的ですが、モデルはいるんですか?

町田「特にいないのですが…。自分の好きな男性芸能人をなんとなくイメージはしていますけれど、性格などは自分の夢と希望です(笑)。こういう人がいたらいいな、という理想像ですね(笑)」。

—物語のディテールもとても細かく、観察眼が鋭いですね。

町田「いや、そんな…(照)。私自身、免許を取って初めて自分の車を持って、小倉や門司港に遊びに行っていたので、プロローグの描写は、実体験に近いものがあります」。

—車に名前もつけました?

町田「つけました。自分の車を持つことは憧れでしたから。でも博多は運転に自信がなくて避けていました。門司港は海を横に眺めながら走れて気持ちいいですね。車線変更もほとんどないですし(笑)」。

—あと北九州弁も盛り込んでありますね。

町田「文字にすると読みにくさを感じてしまうかもしれないので、どこまで入れたらいいのかな、とも思いますが、福岡独特の言い回しは、続編には入れていきたいですね。『離合する』とか。これは車がすれちがうことを言うのですが、より地方性を感じてもらえたらと」。

—続編の予定があるんですね!

町田「はい。何を入れたらいいのか、まだ考えているところなんですけど。門司港名物の焼きカレーもまだ出ていないので、そういうのも入れたいですね。地元の人を描いているので、観光客の人が喜んで食べるものとかはまだ出してないんです。地元の人がわかるものだけど、県外の人からしてみたら“へぇー”というようなものも入れていきたいです」。

—ああいうディテールは経験がないとなかなか思いつかないですね。町田さんにとってコンビニは?

町田「よく行きます。子どもがどこか遊びに行きたいと言えば、コンビニでアイス買おうってお茶を濁したりとか。子どもたちの遊びの待ち合わせ場所も役場前のコンビニが多いようです。近所のお母さんが『あんたのとこの子、おったよ』とか教えてくれることもしょっちゅうで」。

—コンビニを舞台に書こうと思われたきっかけはありますか?

町田「自分がコンビニを好きなのと、あと、自分の知っている土地を物語にいれたいな、と思って門司港を舞台にしました。博多の方にはあまり来ないので。北九州から見ると、博多って敷居が高いんです、なんとなく。小倉駅とかその周辺で遊んでました」。

—コロナ禍で多くの人の生活が変わりましたが、作家さんの生活はいかがですか?

町田「基本引きこもってパソコンの前に座っているので、あまり変わりません。しかし作品的には、コロナの後を描写しなきゃいけないのかな?とは思っています。みんなマスクしていますし。しかもレジ袋も有料になったじゃないですか。支払いもキャッシュレスが増えて、今、コンビニの会計すごく煩雑になっているんですよね。今後は入れていかなきゃいけないのかな、と思っています。ソーシャルディスタンスとか。どこまで現実を沿わせるのかは、ぼんやり考えています」。

—物語の舞台であるコンビニが、高齢者向けマンションの1階で、高齢者の見守りを兼ねたサービスがあったり、面白い施策が小説の中に出て来ますね。

町田「元々きっかけになった高齢者向け住居があって、そこの1階がコンビニだったんです。上の人がさっと買える野菜や日用品、おもちゃも置いてあって。高齢者のお孫さんが来た時に購入できるようになってたんです。それが面白いなーと思って。コンビニって言っても、いろんなものがあるなと思ったのがきっかけです。作中のコンビニは理想のコンビニです。いつも誰かがいて、きれいに清掃されていて、子どもが安心して利用できる。自分が年老いた時にあったらいいな、という夢と希望をつめこみました」。

—町田さんが小説を書いたきっかけは?

町田「小学生の頃から、いわゆる本の虫と言うほど読書好きでした。小学校3年生の時に、氷室冴子さんの小説を読んで、将来小説家になる!と思っていたんです。作家になって氷室冴子さんに会うんだ!と思っていて、高校生の時くらいまでは自分で小説もどきを書いたり、友だちの演劇部の台本を書いたりしていたんです。その後に理美容学校という畑違いの学校に進学しまして、そこから理容師の修行が始まったんです。そうすると、読むことはかろうじてできても、書くところまで全然行かなくて。結婚、出産と、書くことからは離れていたのですが、28歳の時に氷室冴子さんが亡くなったんです。私が憧れていた人が死んじゃった…と自分でもびっくりするくらいショックを受けまして。そこからもう一回頑張ってみよう、と、改めて取り組んだことがきっかけです。

自分に対する失望といか、何してたんだろう私…と。満ち足りた人生だったらそうは思わなかったのかもしれません。夢を叶える努力をしてこなかった自分が許せなかったんだと思います。もう一回やってみようと、もう一度書き始めました。

この小説では通勤や通学の時に軽く読んでもらいたいと思っています。楽しい気持ちになって、ほっこりしてほしい。

デビューのきっかけになった新潮社の『R-18文学賞』に送ってその時には1次審査も通らなかったんです。もう一度頑張ってみようって2年後に応募した時は、二次審査に通ることを目標にしていたんです。そしたら何と大賞をいただきました。頑張ってよかったです」。

—夢を叶えられた人がどれくらいいるか、という描写がありましたが、夢を叶えられましたね。

町田『人生の運の大半をそこで使ってしまったかもしれませんが、叶わない夢はないのかもしれないです」。

—就職や結婚で書くことから離れたり、文学賞に通らなかったとしてもあきらめなかったからこそ、今があるんですね!

町田「ドラマや映画などの映像化希望というコメントを頂くことが多く、それがとてもうれしいです。 門司港はどこを撮ってもきれいですからね。新しい夢のひとつになりました」

—それはいいですね。北九州はフィルムコミッションが大活躍していて、よく映画のロケもされているので、ぴったりです。映像化されたものも観てみたいです!! 映画もいいですが、ドラマもいいですね。ご当地ドラマとか。

町田「今回、ラジオや新聞など、いろんな媒体が盛り上げてくれていて、皆さん門司港が好きで、と本当に地元愛にあふれていて、作品を喜んでくださるので、本当にうれしいです」。

福岡生まれの著者が、小倉駅周辺で青春時代を過ごし、初デートはスペースワールド、ひよ子本舗吉野堂で働いていたそう。

インタビューに同席していた新潮社の担当者さんが「女性社員が第一次・二次と選考した作品を、三浦しをんさん、辻村深月さんに大賞を選んでもらうのですが、おふたりに絶賛されて選ばれたのですよ」と教えてくれた。

町田そのこさんの最新作、ほっこりできる『コニビニ兄弟—テンダネス門司港こがね村店—』は書店にて発売中!

試し読みはコチラから!

http://www.shincho-live.jp/ebook/result_detail.php?code=E046291

※1『女による女のためのR-18文学賞』は、応募も選考も女性による文学賞。R-18と書いているのは、おとな向けの小説という意味であり、応募資格に年齢制限は設けていない。

 

Profile

’80年福岡県京都郡生まれ。’16『カメルーンの青い魚』で第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞。’17年に同作を含む『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』を刊行。主な著書に『ぎょらん』、『うつくしが丘の不幸の家』、『52ヘルツのクジラたち』など。

 

 

 

 

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