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【インタビュー】清塚信也「自由に解釈できるから、クラシックは面白い」

TBS系金曜ドラマ『コウノドリ』でテーマ曲や監修を手掛け、俳優としても出演。そのマルチな活動が注目を集めているピアニスト清塚信也に、クラシックの魅力と音楽活動について話しを聞いた。

―清塚さんが奏でる音色はとても繊細で心地良いです。どんなことを考えながら曲作りをしているのですか?

音楽は、知ればしるほど語学と似ているんです。文法のようなルールや規則性みたいなのもあるし。言葉を勉強する上で、文法や単語だけでなくネイティブが使うニュアンスを知るのも大事だと思うのですが、僕らはおそらく、音楽を“ネイティブな言語”として取り入れる訓練を今までやってきたんです。言葉を発する時、「こういう文法で、こういう名詞を使って」と入念に考えないじゃないですか。最初、英語とか話せない時は一つずつ組み立てていくかもしれないけど、それがどんどん自分で消化されたら無意識でできるようになってくる。その作業が、音楽にもすごく必要なんですよね。言葉は「こういう気持ちを喋りたいんだよな~」って思ったらふっと出るじゃないですか。それとすごく似てるんです。だから、音楽という言葉をどれだけ自分の気持ちとシンクロさせるかという日頃の意識が大事で。生きてることが訓練というか、練習になるんです。

 

―日々の一瞬一瞬がつながるんですね。

そうなんです。こうやってお話をしていても、白い服を着ていて、こういうキャラクターで、こういう喋り方で、今BGMを流すとしたらこういう曲かなとか、メロディはこうで、リズムはこうかなっていうのを見るものすべてに考える癖がついちゃって。そういうのをいつもどこかでストックしているのだと思います。自分では忘れているんですけど、映画やドラマのあるシーンの音楽を作る時にパッと出てくるんですよね。だから、日頃どれだけ自分の気持ちを音楽で表しているかが大事だと思うんです。

 

―毎日がミュージカルみたいですね。

割とそうですよ。つまんないような日常でも、映画やドラマでも、そこに何かBGMがあると途端に意味を持ったりするものじゃないですか。絶対音感というのは定義が難しいですが、頭の中で実際に音を鳴らせることをいうんです。「ソ」の音を鳴らそうと思えば、頭の中でその音を実際に聴いているように鳴らすことができる。それが絶対音感。自分のスイッチで音楽が鳴っている状態にできるんです。

 

―スイッチは切ることもできるんですか?

切る方がむしろ最初は大変ですね。子どもの頃についちゃう感覚だから。雨の音とか何でも音として聞いちゃうので、自分の中で音楽を流している最中に他の音楽や音とか、それこそ救急車のサイレンとか入ってくるとぶち壊しになる。音楽家や、特に作曲家が神経質なのはそういうところからきちゃうと思うんですよね。ちょっとした音でイライラしちゃうとか。自分でも気が付かないうちに音が混じるのはすごくストレスなんですよ。だから、話しかけるだけで怒る人とか結構いると思うんですけど(笑)、そういう状態になっていると思います。

 

―オンとオフを切り替えて、自分をリラックスさせる方法はあるんですか?

結局、音楽によってリラックスするんです(笑)。音楽によってストレスももらうし、音楽によって解決もしていくんですよね。

 

―心から音楽を愛しているんですね。

そうですね。今さら愛しているというのは恥ずかしいですけどね。家族みたいなもので。それが当たり前になっちゃっているというか。

 

―クラシックの魅力とは?

古いことですね。CDもなければハードディスクもない時代の、何百年も前の文化が残っているのはミステリアスだし、矛盾する言葉ですが、古いからこそ新しいんです。証拠がどんどんなくなって二度と分からないだろうということばかりだから、その時に思いつくアイデアで解釈をしていけるんです。例えばショパンは39歳で亡くなったんですけど、その直前に10年間寄り添ってくれた恋人に突然捨てられてしまったんです。ショパンは実は結核で、当時は一生治らないと言われて、差別されるしすごく恐れられていたんですけど、その結核病患者であるショパンに10年寄り添っていたというのは普通の愛だけじゃなく、命の危険を覚悟していた相当な女性だと思うんですよね。でもその10年間をポイって捨てちゃった理由が未だに分からなくて。彼女は2人の子持ちだったんですが、上の娘とすごく仲が悪くて、その娘がショパンにあてつけで色仕掛けをしたって疑っている手紙が残っているんです。それがもし本当なら、「絶交よ!」となるのも分かるし、そういう可能性もあると僕は思うんです。クラシックってどうしても美談にしちゃうんですが、でも皆芸術家だし人間ですから、当時『新潮』があったら全員引退してるんじゃないかと(笑)。真実は分からないですけど、時が経てば経つほど好き勝手言えるんですよね。その時作っていた曲の解釈も色んな風にできる。古くなればなるほど新しいアイデアがそこに生まれるのが、クラシックの一番の魅力だと思っています。

 

―そういう面白さ含め、クラシックの魅力を伝えようと演奏をされているんですね。

完全にそうですね。曲としての良さはそんなに伝えたくないんですよ。

 

―そんなはっきりと(笑)。

清塚:尊敬もしているんですけど、半分近くは嫉妬というか彼らをライバル視していて。だって同じミュージシャンじゃないですか。ショパンは最たるピアニストで、歴史的に見ても一番の成功者。オリコンランキングが当時からあれば大変なことになっているでしょうね(笑)。同じミュージシャンとして越えなきゃいけない人でもある。もし今生きていたら「負けねーぞ」って思いでいるので、ショパンの魅力を語る時は2~3割は心の中で「しょうがねえな、代わりに言ってやるか」って(笑)。生きていたら絶対ネガキャンしかしないですから「あいつ娘に手出したらしいぞ」ってSNSとかで。

 

―テレビや俳優活動など、ピアノに向き合う時と違う楽しさがありますか?

人とつながりたいというのが常にあるので、人とつながることができれば何でもいいんです。たまたま5歳の頃から母の影響で手元にあったのがピアノというツールだったので一番精通したんですけど、バラエティ番組でも芝居でも、何でもよくて。僕の人生は三等分するなら、作曲とピアノと芝居とでいけたらいいなってずっと思っていたので、今後はどれにどうというのではなく。ただ芸事や表現は簡単ではないので、何をやってもというワケにもいかないと思うんです。スキルや基礎が必要だし、習得する時間も必要だから、そこは溺れないようにして、この3つくらいで人生は十分だと。でも芸人さんがやっていることは唯一諦めました。

 

―やってみたかったのですか?

すごいやりたかったし、笑いという世界に興味があって。人を笑わせることの奥深さは、感情の中で一番難しいんじゃないかと思ってるんです。だから、コンサートのMCには必ず笑いを入れるようにしてるんですけど、所詮ピアニストとして見てくれているから笑ってもらえるのであって。だから芸人さんってすごいと思って、諦めた部分があるんですよね。

 

―色んなお仕事をされていますが、中でも印象的だったことは?

印象的なことばかりだなぁ。『コウノドリ』はすごく大事なものにはなりましたね。

―『コウノドリ』のテーマ曲『For Tomorrow』はどのような想いで作られた曲ですか?

『コウノドリ』1作目では、綾野剛さん演じた鴻鳥サクラという主人公の医者が、患者さんの症例を通じて自分の過去を見つめ直す感じがあって。サクラ自身生い立ちがハードだったので精算したい気持ちがあったと思うんですが、2作目は、自分の周りの人を支える役割。だから、聞き終わった後に背中を押された気分になってほしいというコンセプトで作りました。そのために1作目のメインテーマ『Baby, God Bless You』よりも音数が多くなっちゃったんですよ。人の背中を押すためには和音とか厚みのある音が必要で。『Baby, God Bless You』は左と右で、一音ずつで良かったんですけど、今回は和音だらけですよ。その結果、綾野さんがやることが難しくなっちゃって。完成発表会で演奏したら、スタッフ陣は「良い曲できた~」って言ってくれたんですけど、剛だけ何も言わなくて、「きよちゃん、ちょっと」って散々文句言われましたね(笑)。「僕が大変なの、きよちゃんが一番知ってるでしょ」って。でも完成度はいつもながらすごかったです、妥協しないし。時間がない中、こちらも指導する中で余計な情報を与えないように気を付けました。

 

―『コウノドリ』に関わる中で心に残るエピソードはありますか?

最近コンサートのサイン会で、僕の所に来て「清塚さんって弾き方綾野さんにそっくりですね」と言われて複雑な気持ちになりました(笑)。いやいや、って思ったけど、『コウノドリ』は多面的に関わらせてもらって、曲も作れば剛の演技指導もして現場監督もするんですよ。監修もやったし、芝居もやらせてもらって表も裏も関わったので、表側としては「綾野さんに似てる」と言われるのは癪なんですけど、裏方としては、演技指導に関してパーフェクトな意見じゃないですか。だから喜んでいいのやら悲しいのやら。あるコンサート会場では『For Tomorrow』『Baby,God Bless You』を弾かせていただきますと挨拶をして、さぁ弾くぞってなった時にもう泣いてる人がいて。僕聴かなくていいじゃんって(笑)。そういうのがドラマの威力というか。複雑な気分になります(笑)。

 

―アルバムでは連弾もされていますね。

連弾のサウンドというのは、一味違ったピアノの魅力があります。88鍵もあるので、これだけレンジの広い楽器ってなかなかないんですよ。2本の腕では到底カバーできないんですけど、4本であればオーケストラの曲など色々できるので、違う迫力がありますね。2人で合わせるスリルも生まれるので、1人の時とはまた違うものになります。一緒に弾いている髙井羅人(らんど)が僕の幼馴染で、すごくポンコツなんですけど、それがまた面白くて(笑)。顔も小っちゃいんですけど、脳も小っちゃいんですよね。

 

―幼馴染と連弾とは素晴らしいですね。

『コウノドリ』の激版には弦楽器なども入っていて、作曲させてもらったんですけど、演奏者は90%同級生で、しかも男だけ。レコーティングしている時幸せだなと思いましたね。作曲家と演奏家の関係ってすごく繊細なのですが、気兼ねない相手だけで構成できたのは奇跡に近くて。すごく贅沢でした。

 

―3月21日には福岡でツアー公演がありますね!(※)

前半はクラシックを、後半は『コウノドリ』の曲を中心にオリジナル曲をお届けします。クラシックは面白いエピソードがある曲や作曲家に絞り込みました。「これ聴いたことがある」という曲に関しては、実はそういう曲だったんだってヒントがある上で聴くとグッと心が開くので、初心者の方にも面白いなと思ってもらえると思います。

3/21公演はSOLD OUT。8/26に福岡サンパレス公演が決定!詳細は下記参照。

Album『For Tomorrow』発売中

UNIVERSAL MUSIC/3240円

公式HP http://tristone.co.jp/kiyozuka/

清塚信也コンサートツアー2018 For Tomorrow

日程/3月21日(祝)13:00
会場/FFGホール(旧福岡銀行本店大ホール)
料金/SOLD OUT

清塚信也presents TBS系ドラマ『コウノドリ』コンサート

日時/8月26日(日)16:00
会場/福岡サンパレス(福岡市博多区築港本町2-1)
料金/全席指定6800円 ※4歳以上要チケット(3歳以下入場不可)
発売日/4月28日(土)
問い合わせ/キョードー西日本 092-714-0159

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