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【インタビュー】かりゆし58・前川真悟「苦悩を乗り越えた分、再スタートは最高な形できりたかった」

取材・文/本田珠里(編集部)
写真/福島大祐(編集部)

3年ぶりのオリジナルアルバム『変わり良し、代わりなし』が好評の『かりゆし58』。メンバーの病気を受け止めながら、全員で作り上げたという作品について、ボーカルの前川真悟さんが熱く語ってくれました。

ーまずは、アルバム『変わり良し、代わりなし』について。とてもシンプルな言葉ですが、インパクトのあるタイトルだなと。このタイトルになったいきさつは。

ちょうど今年がバンド結成から12年で、メンバー全員同級生の年男なんです。12年前に全員で一念発起してバンドを組んで、売れたいとか、歴史に名を刻みたいというより、30歳になる頃には家族が胸張って「この人うちの旦那です」とか「自慢の息子です」って言える人間になるのが目標だったんですよ。そこから一生懸命やってきて、家族もできて、夢は叶ってたように見えてたんですが、ドラムの洋貴が2年前に手を故障したんです。ストレスが原因とも言われる病気と分かって、「俺たちどこに向かってるんだろう」って思ったと同時に、自分の中の根本的な部分も12年前と変わってしまった気がして、メンバーが一人欠けてる状態で、次の一歩を踏む選択が正しいかも分からない、そんな葛藤があった2年間でした。

その時、自分の中で気持ちの折り合いをつけるために「色んなものが変わるのは多分不自然なことではない。自分の中で変わってしまうことも一回肯定して良しとしよう。どうやったって自分の代わりに生きてくれる人はいないんだ」っていう、おまじないみたいな言葉と共に過ごしたんです。それからメンバー全員と話して、10周年のゴールテープを綺麗に切れなかったから、再スタートは最高な形でいきたいねと決意して、アルバムタイトルは、僕が唱えていたおまじないにしよう、と決めました。

 

ー「おまじない」の言葉だったんですね。『かりゆし58』といえば、曲も勿論ですが、歌詞がやはり素晴らしくて、今回もグッとくる歌詞が多く感動しました。

う〜ん、書き続けるのはとても難しいし、言葉に気持ちを落とし込むのが上手くいかなくて悩んだ時期もありました。今まではより多く、より遠くの人にまで届くように作品と向き合っていたことが多かったんです。ただ今回、今までとの大きな違いがあるとすれば、洋貴とまた一緒にライヴをする時に歌いたい曲だったり、4年に1回地元の大きな祭りがあって、町役場にガキの時からの先輩が勤めてるんですが、「この祭の時くらい都会に出ていった奴らが帰って来たくなる機会にしたいから、そんな歌を書いてくれないか」と相談されてできた曲、そういう周りの人たちとの、ちっちゃい文通みたいな曲が散りばめられていてます。目の前のことや、自分が知っている物事に向かって書いていると、嘘がなくなったから、さらに俺たちらしさみたいなものがハッキリした気がしますね。

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ー今回のリード曲『流星タイムマシン』は、初っ端のギターのリフから『かりゆし58』の曲としては新鮮な感じがして、PVもとても印象的でした。

ありがとうございます。実は、自分たちの中で、どれも嘘がない有機的な作品ばかりだったから、その中からリード曲を選ぶのも…と思っていたんですが、『流星タイムマシン』のラフミックスが届いて、初めて俯瞰的に聴いた時に「これじゃない?」ってなったんです。この曲は、ギターの直樹が作曲して、そこにもう一人のギターの行裕と僕が初めてツインボーカルで歌を入れたんです。PVには、洋貴が数週間かけて作ったジオラマを入れて、メンバー全員がそれぞれ挑戦した事を含めて一つの作品にできる曲だなと、今の俺たちのシンボルになるんじゃないかな、ということでリード曲になりました。

 

ーあのジオラマは本当に作られてたんですね! すごく素敵でした。

設計図から自分で書いて、ばあちゃん家で一生懸命作ってました。今までも「DIYや」って言って、わけわからん物とか作ってたのに(笑)、そこから数カ月経たずにあのジオラマを作ってきたから、きっと本気で作ったんだと思うんですよ。あと、10年近く前にリリースした『電照菊』っていう曲があって、洋貴の家の菊の促成栽培の畑でPVを撮っているんですが、今回、同じ場所で撮影したんです。3歳の頃からの幼馴染みの洋貴と行裕が、ガキの頃から見ていた風景っていう意味でタイムトラベル感があるし、10代真っ只中みたいな子たちがPVに登場することで、幼い頃の思い出に交錯する部分もある。バンドの歩みの中で­­も、変わってしまったものを抱えながらその当時と同じ場所に立つことで、自分たちが生まれ育った場所や時間や想いを残せて良かったなって、メンバーとも話してます。

この曲に関わらずですが、この作品はメンバーそれぞれ制作期間を今まで以上に共に過ごしたことで、人生の大事なポイントになったということだけは4人とも実感してるんです。コーラスが入ってる曲は全部、ドラムとしては参加できていないけど、洋貴の声が入ってるんですよ。

ー楽器として参加はできていなくても、ちゃんと全メンバーの存在を感じられるのはファンとしても嬉しいですね。

今回のアルバムは制作前からみんなでトピックを出し合って、今までで一番、曲順をこれ以外ないというくらい考えたんです。その中でも、『流星タイムマシン』に続く『ユクイウタ』や『ホームゲーム』が、一番あったかい気持ちで聴けるにはどうしたらいいかみたいなのを考えて作りました。『ナナシの隣人』という曲も気に入ってるんですけど、この2曲の後に来たら少し冷たく聴こえてしまうから、アルバム前半、飛び道具的な曲の後に持ってきて、それぞれの曲の歌詞の存在を活かしたり、『髪を切る』という曲をヘソに、昔の俺たちの感じに戻っていく「変わり良し部分と、代わりなし部分」の流れを作ったりしました。

 

ー例えばどんなトピックがあがったんですか?

例えば最後の『FFF』は行裕の提案で「音楽にそこまで興味ない人も忘年会とか行ったらカラオケで毎年同じ歌を歌って「オーイェー!」ってなってるやん、そんな曲」とか(笑)。『Happy Birthday Song』も行裕なんですけど、居酒屋で夜中に電気消えてケーキが出て来て、だいたい流れる曲決まってるじゃないですか。それを聴いて「地元の居酒屋だけでも『かりゆし58』にしてくれんかな」って(笑)。最初は「バースデーソングとか(今さら)よくない?」とか言ってたんですが、“おまけ”にすると、ちょっと特別感が出るじゃないですか(笑)。そうやって、少しでも曲たちに肩書きをあげたかったんです。

ー今回、そのように身近な人や物事に目を向けて作られた作品とのことですが、個人的な印象で、『かりゆし58』をはじめ沖縄出身のバンドって、それぞれジャンルは違っても、沖縄らしさを感じる音がどこかに入っていて、今や”沖縄出身のバンド”という、一つのジャンルが確立しているなと感じます。各バンド同士も、それぞれ尊重し合いながら共存しているようなイメージもあって。

そうですね。例えば、先輩のBEGINが開催している「うたの日コンサート」では800人くらいステージに上がるんですが、その内ミュージシャンと呼ばれる人は4組くらいで、あとは地元の人たち。プロアマ関係なく同じステージに立つことで、音楽が好きな人が増えれば音楽は死ぬことはないっていう、とてもシンプルな考えなんですよね。音楽のパフォーマンスの力とかロジックよりも、人を喜ばせるためにどんな愛を持ってやればいいのかをそういう場で自然と教えてくれて、音楽をよりみんなのものとして感じてもらうために、人の心にすっと入っていく音楽を追求する先輩方が多い気がします。なので、先輩や後輩の関係性の中に独特のほっこりとした空気感が生まれて、それが周りから見たら、みんな一つの車座になってしゃべってるように見えてるんじゃないかなと。ミュージシャンって、今すごく不安が多いと思うんです。CDもなかなか売れない時代だし。それでも、まだまだ沖縄のバンドが出てくるっていうのは、そういう先輩方の音楽に対する考え方を共有しているからじゃないかなと思いますね。

 

ー音楽に対する価値観そのものが、音楽で売れるとか、競い合うという所に向かっていないということですね。

沖縄のバンドマンにとっての一番のステータスって、紅白とかドームとかよりも、「那覇祭り」っていう県民の3分の1が動くと言われる沖縄で一番でかい祭りがあって、そこにあるステージで沖縄の人たちが一緒に踊ってくれたら、沖縄に愛されたバンドってなるんです。僕たちでもギリギリかもしれないです(笑)。もちろん音楽フェスじゃないので普通に酒飲んで遊びに来てる人たちばかりですよ。テレビに出てようが、今人気があろうが関係ない。沖縄の人が観て、音楽に対して真っ当なやり方をしていれば、沖縄の人はいつまで経っても愛してくれるんですよね。

 

ーこれからツアーが始まります。福岡もデビューしてから何度も来ていただいてると思いますが、福岡ってどういう印象ですか?

福岡を嫌いな人いないでしょう! 飯も美味しい、可愛い子多いって、みんな言いません(笑)? それはもうもちろんなんですが、個人的に、ここ2年くらいソロで先輩の沖縄料理屋でライヴさせてもらうようになって見える景色が違ってきました。街の友だちが連れて行ってくれる居酒屋とか、知り合いの店に顔出したりとか、ライヴハウス以外の場所で過ごす時間が増えた分、街で見たり感じたものが身体に染み込んできて、思い入れが強くなったというか。今回の作品は、目を、耳を、心をふるさとに預けて作った曲が多いので、身近な人が増えてきた福岡がさらに愛おしく思えるようになりましたね。

 

ーそれは嬉しい! 最後に、ライヴへの意気込みをお願いします。

ライヴの価値って、どんどん上がってきてると思うんです。今やありがたいことに世界中の音楽が無料で飛び回って、音楽がより身近に、手軽になってる時代の中、“ライヴ”という人口密度の中にお金と時間をかけて、人が身体を運ぶっていうのはとってもすごいことだなと思うんです。そういったハードルを越えてライヴを見に来てくれる人たちって、何ていうか…大丈夫だと思うんですよ。自分を遊ばせることができる人たちだから。なので、そのありがたみをライヴで伝えながら、その空間で僕らも思い切り遊ばせてもらいたいなと思います!

リリース情報

7th album「変わり良し、代わりなし」(3000円+税)発売中
かりゆし58 http://kariyushi58.com/index.php

ライヴ情報

『ハイサイロード2017-18〜変わり良し、代わりなし〜 福岡公演』
日程 2018年1月27日(土)
開場/開演 16:00/17:00
会場 福岡DRUM LOGOS
料金 オールスタンディング 4,000円(税込、ドリンク代別※6歳以上チケット必要)
<発売プレイガイド>
チケットぴあ 0570-02-9999(Pコード:342-444)【チケットぴあ】
ローソンチケット 0570-084-008(Lコード:83646)【ローソンチケット】
イープラス 【イープラス】
問合せ 092-712-4221(BEA)

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