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【福岡ラーメン物語 のぼせもん|77杯目
麺や きく川】

「博多ラーメンの新しい形を作りたい。独創性のある一杯を目指していきます」

博多ラーメンは白いものと誰が決めたのか。

ラーメンは作り手の数だけ味がある自由な料理のはず。ならば真っ黒い博多ラーメンがあってもいいじゃないか。博多ラーメンにもっと自由を。

『春吉ブラック』(950円)/豚ゲンコツと背骨のみを使用した豚骨スープは濃厚ながらも臭みなくまろやかな味わい。焦がしニンニク油が一面に浮いたインパクトある一杯

 

 

麺や きく川 店主

菊川 寛人(Kikukawa Hiroto)

1991年、福岡県太宰府市生まれ。高校卒業後、県内や都内の人気ラーメン店で経験を積み、2020年『ラーメン伍』のリニューアルに参画、2023年独立開業を果たす。

 

博多ラーメンが生まれて70年以上が経つ。先達の弛まぬ努力によって長年受け継がれてきた、福岡を代表する食文化の一つと言っても良いだろう。しかしながら博多ラーメンはずっと変わらなかったわけではない。戦後間もない頃の博多ラーメンは、醤油の風味がもっと強いスープで麺も平打ちだった。その後長浜ラーメンとの融合を経て、博多ラーメンは白濁した白いスープに細麺へと変化した。ラーメンとは、その時代背景や社会の変化と共に変わっていくものなのだ。

春吉国体道路沿いに真新しい一軒のラーメン店が出来た。店の名前は『麺や きく川』。店主の菊川寛人さんは福岡や東京の人気ラーメン店で豊富な経験を積んだ人物。居酒屋などを展開する会社に就職し、その後ラーメン部門を任された。

「既存のラーメン店がリニューアルすると聞き、自分から手を挙げて新しいラーメンの提案をしました。誰かが考えたラーメンを作るよりも、自分で考えたラーメンを作りたい。その想いに応えて任せてくれた会社にはとても感謝しています」。

営業中も骨を入れ替えながらフレッシュな豚骨の旨味と香りを抽出する製法は、博多ラーメンでは珍しいスタイル

リニューアル後のラーメン店は大盛況となり一躍人気店へ。しっかりと結果を残した菊川さんは、その店を事業継承する形で独立。移転を機に店名も自分の名前に変えて、晴れて一国一城の主となった。

麺は地元の老舗製麺所、青木食産のオリジナル麺を使う

菊川さんが目指すラーメンは、濃厚でありながらもサラッとした口当たりの博多ラーメン。一般的な博多ラーメンは、一日分のスープを取り切る製法か、前日のスープを元にして継ぎ足し熟成させる製法がほとんどだったが、菊川さんはそのどちらも選ばず、営業中に骨を入れ替えていく製法を取り入れた。こうすることで臭みがなく常にフレッシュが旨味を持ちながら、濃厚な味わいのスー ブを生み出すことが出来るのだ。

「これだけ多くの博多ラーメン店がある中で、うちのお店に来て頂くためには独創性が必要だと思っているんです。濃厚でありながらも臭みがなくサラッとしてフレッシュ感のあるスープが僕の理想。骨をどんどん足しながら作る、今までにはない新しい博多ラーメンの形を作り上げたいと思っています」。

ニンニクの焦がし油「マー油」は、人気熊本ラーメン店に衝撃を受けて独自に作り上げた

従来のイメージにとらわれることなく、自由な発想で博多ラーメンを作る菊川さん。その姿勢が反映された一杯が、丼一面が真っ黒なスープの『春吉ブラック』だ。熊本ラーメンで使われる焦がしニンニク油の「マー油」を博多ラーメンにも応用。味も見た目もインパクト十分な博多ラーメンが誕生した。

「他の博多ラーメンにはない、フレッシュ感がありながらも濃厚な味わいの一杯を目指しています。真っ黒な春吉ブラックや、油そばなどもあるので、自分好みの味を見つけてください」

高校卒業後、ラーメン職人の格好良さに憧れてラーメンの世界に入った菊川さん。十数年の時を経て、念願の独立は果たしたが、それはあくまでもスタートライン。これから挑戦の日々が始まっていく。

「まずはもっと多くの人にこの店のことを知ってもらいたい。僕はこの場所で自分のやれること全てをやり切りたいと思っているんです。今は美味しいラーメンを追求している人に向けて作っていますが、いずれは地元の人たちの日常に寄り添うような、多くの人に愛される店にしていきたいと思っています」。

『ラーメン』(800円)/濃厚で臭みのない豚骨スープが自慢の基本メニュー。肩ロースを使った大きなチャーシューはしっとり柔らか。

 

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●取材を終えて

非豚骨時代に生まれた本気の豚骨ラーメン店

ここ数年、福岡では豚骨以外のラーメン店が増えています。福岡は豚骨ラーメンの老舗や人気店が数多く、ライバルが多い豚骨ラーメンで勝負するよりも、豚骨以外のラーメンの方が注目を集めやすい背景もあります。そんな中で敢えて豚骨ラーメンで勝負する菊川さんは、根っからの豚骨好きで強い豚骨愛の持ち主なのでしょう。いくら非豚骨がブームといっても、やはり豚骨ラーメンは福岡のソウルラーメン。戦後から続く豚骨ラーメンの歴史をしっかりと受け継ぐ新店の登場は、いちラーメンファンとしても嬉しく思います。そして経験が豊富で引き出しの多い菊川さんが、これからさらにどんなラーメンを作るのかも楽しみでなりません。

【ラーメン評論家 山路力也】
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な媒体で情報発信するかたわら、ラーメン店のプロデュースなど、その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中

 

 

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掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。

 

麺や きく川

【所】福岡市中央区春吉3-12-21
【☎】092-734-3108
【営】11:30~20:00
【休】不定
【営】11席
【P】なし
カード/不可

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