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【福岡ラーメン物語 のぼせもん|76杯目 博多鶏sobaとり田】

「鶏だけでどこまで美味しいものを作れるか。それが鶏を扱ってきた料理人のプライドです」

料理人としての矜持。いかにして目の前の素材から美味しさを引き出すかに妥協をしない。長年扱って来た鶏のプロフェッショナルだからこそ、鶏のラーメンでは絶対に負けるわけにはいかない。

『特製鶏そば』(1000円)/『とり田』で長年培って来た水炊きの製法を応用して丸鶏の旨味を凝縮した鶏白湯に、地元福岡の醤油と厚削りの鰹節で仕上げた一杯

 

博多鶏sobaとり田 店主

奥津 啓克(Okutsu Hirokatsu)

1972年、神奈川県小田原市生まれ。フレンチ『ひらまつ』で料理の道へ。2007年『手島邸』を創業、2012年『とり田』を開業し、数々の人気店を立ち上げる。

 

福岡を代表する郷土料理「水炊き」の人気店『とり田』。創業者の奥津啓克さんはフレンチ出身の料理人だが、これまで水炊きをはじめとする料理を通じて、福岡の豊かな食文化を発信し続けて来た。

「僕がフレンチをやっていた90年代後半は、日本の魅力を世界にどう発信していくかがテーマでした。日本の料理や文化を海外に伝えるのならフレンチよりも和食なのではないか、と思っていた時にご縁があって、シェフとして和食の世界に身を投じることとなりました」。

鶏白湯は水炊きの製法を用いて丸鶏を白濁させて旨味を凝縮させる

フレンチのグランメゾンから和食への転身。その後、飲食店プロデュースなども手掛けて創作和食の店を創業して独立。独立から5年後、水炊き専門店の『とり田』を開業。老舗ばかりの水炊きが多い中で、アップデートされた水炊きが国内外多くの人の心をつかんだ。

「今から10年ほど前の水炊きは福岡を代表する料理でありながら、形式ばっていて気軽に楽しめないところがありました。若い人や海外の人たちにも気軽に美味しい水炊きを食べて欲しいと思ったんです」。

清湯スープはコンソメの技法で白濁させたものを透明に仕上げる

奥津さんは神奈川県生まれで、福岡に仕事で来た時に自然や食材の豊かさに料理人として魅了され、福岡に移り住み店を開いた。ある種客観的な視点があったからこそ、地元の人が見落としがちな福岡の食文化の豊かさに気づくことが出来た。『とり田』の登場によって、福岡の水炊きは世界に発信出来る食文化にアップデートされたのだ。

地元福岡の北村製麺に特注したオリジナル麺は、鶏そば用としょうゆ鶏そば用の2種類を使い分けている

そんな奥津さんがこの夏新たにラーメン専門店を立ち上げた。もちろん使用する食材は「鶏」。長年水炊きで鶏を扱って来た奥津さんだからこそ、そこだけは譲れなかった。鶏だけを使っていかに美味しいラーメンを作れるか。料理人として、水炊き屋としてのプライドだ。

スープは2種類。水炊きの製法を応用した鶏白湯と、フレンチの技法を使った鶏清湯。地元福岡産の醤油はそれぞれのスープに合うものを厳選。麺も地元の製麺所に特注し、食材も九州産のものを使う。丼の中すべてに奥津さんの経験と技術、そして福岡への想いが込められている。まさに「作り手の顔が見えるラーメン」。料理屋の片手間ではない、料理人がプライドをかけて作る本気のラーメンが完成した。

「ラーメンも世界に誇るべき日本の食文化だと思うんです。そして日本や福岡を表現出来る料理だと思っています。水炊きと同じくラーメンを通して日本や福岡の魅力を伝えていきたいと考えています」。

『特製しょうゆ鶏そば』(1000円)/鶏の旨味と香りが広がる澄明なスープに、福岡糸島『北伊醤油』の生搾り吟醸醤油をそのまま合わせた一杯

百戦錬磨の経験を持つ奥津さんであっても、ラーメンはとても難しい料理だと語る奥津さん。だからこそ闘志が掻き立てられる。奥津さんは根っからの料理人なのだ。

「ラーメンは和食と違って丼一杯で完結する料理。お出ししてから10分で勝負が決まる料理なんです。そこにストーリーとパワーをどう持っていくかが重要になります。シンプルであればあるほど料理はとても難しいものです。しかし料理人として、鶏屋として、これからも鶏でどこまで美味しく出来るかに挑んでいきたいです」。

料理人として経営者として多店舗を展開する奥津啓克さん。「うちのラーメンはご飯と一緒に食べて欲しいんです。それぞれのラーメンに合ったご飯をご用意していますので、ぜひ一緒に楽しんで頂きたいですね」

 

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●取材を終えて

料理人の本気を感じた料理としてのラーメン

以前よりレストランや料理人が作るラーメンというものは数多ありましたが、正直ラーメン専門店のものと比べると物足りないものがほとんど。それはやはりラーメンにはラーメンのツボがあり、それが理解出来ていない料理人が多いということでもあるのですが、『とり田』のラーメンはスープはもちろん具材一つに至るまで、料理としての緻密な完成度を持ちながら、ラーメンとしてのツボもしっかりと押さえている完璧なものでした。これは奥津さんの長年の経験もさることながら、商品開発から現場までラーメン事業を任されているスタッフの方たちの存在も大きいのではと思います。これからも色々な『とり田』のラーメンを食べてみたいですね。

【ラーメン評論家 山路力也】
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な媒体で情報発信するかたわら、ラーメン店のプロデュースなど、その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中

 

 

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掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。

博多鶏sobaとり田

【所】福岡市博多区美野島1-4-1
【☎】092-441-0927
【営】11:00~15:00
【休】水曜
【席】25席
【P】なし
カード/不可、PayPay可

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