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【福岡ラーメン物語 のぼせもん|61杯目 あなたの心を鷲掴み】

「調味料や油分に頼りたくないんです。豚骨の旨味だけで美味しいと言わせたい」

豚骨ラーメンに魅せられた一人の男がいる。もっと骨の旨味を出して美味しくしたい。その一心で大量の豚骨を入れた大きな羽釜と格闘する毎日。博多でも久留米でもない新たな豚骨ラーメンの誕生だ。

 

あなたの心を鷲掴み

三浦 隆寛(Miura Takahiro)

1984年、 宮崎県小林市生まれ。大学を中退し福岡のラーメン店に就職。宮崎でのラーメン修業を経て、2013年、宮崎市内で『とんこつラーメン天頂』を創業。2018年に屋号を改め、 八女市に移転オープン。

 

八女市立花町。福岡市内から車で一時間、人口一万人足らずの小さな町の国道沿いに、市内外はもちろん、九州や全国各地からも連日多くの客が訪れる店がある。『あなたの心を鷲掴み』。常連客はこの店のことを「アナワシ」と呼ぶ。

厨房に鎮座する3基の羽釜には、はみ出すほどに大量の豚骨が入れられている。福岡はもちろん全国でも屈指の濃度を誇る豚骨スープ。「アナワシ」の唯一無二の超濃厚ラーメンを求めて、人は全国から遠路はるばる八女までやって来るのだ。

「僕は濃いラーメンを作りたいわけではないんです。骨の美味しさを出したい一心でここまで来ました」 。

店主の三浦隆寛さんは宮崎で生まれ育った。大学進学のために福岡で一人暮らしを始めた三浦さんは、賄いが出るという理由だけでラーメン店へアルバイトに入った。

「バイト仲間には負けないぞ、という気持ちで働いていると評価されて、さらに色々と仕事を任せてもらえるようになりました。自分が頑張った分だけ結果に繋がる仕事にとても魅力を感じたんです」。

『鷲掴みとんこつ』(800円)/使用する豚骨は丼一杯あたり約1キロ。化学調味料やラードに頼らず、豚骨だけを強火で炊き上げた超濃厚スープをストレートに味わえる一杯。圧倒的な存在感のあるラーメンだ

ラーメンを一生の仕事にすると決めた三浦さんは、すぐに大学を辞めてバイト先のラーメン店に就職した。独立を目指して日々の修業や勉強のための食べ歩きを重ねる中で、三浦さんは醤油ダレの塩分やラードなどの油分に頼る従来の豚骨ラーメンの作り方に疑問を感じた。

「呼び戻し」製法で作られる濃厚スープは、3基ある羽釜のうち営業用の釜に骨を継ぎ足していくことで、さらにフレッシュな旨味も加える

塩分や油分ではなく、豚骨そのものが持つ「骨味」を感じられるスープを作りたい。ストレートに骨の美味しさを味わって欲しい。その一心でスープと向き合っていった結果、日に日に羽釜に入れる豚骨の量は増え、一杯あたり約1キロの豚骨を使うまでになった。こうして化学調味料を使わない、超濃厚な「アナワシ」のラーメンは生まれたのだ。

移転を機に自家製麵へとシフト

高火力のバーナーでグラグラと炊き続けられる羽釜には、三浦さんの長年の経験からくるタイミングで、さらに豚骨が次々と投入されていく。白濁を超えた茶褐色の豚骨スーブは、濃厚ながらも臭みはなくしつこさもない。スープに合わせて作られた自家製麺は、中太でツルッともちっとした食感。博多ラーメンとも久留米ラーメンとも異なる、三浦さんオリジナルの豚骨ラーメンだ。

「骨の旨味を強くしたいので骨を足し続けていこうと。そうすると臭みやエグミが出るので火力を強くして一気に飛ばそうと。濃いラーメンを作りたかったわけではなく、もつと骨の味を出すにはどうしたら良いかと、試行錯誤した結果なんです」。

『替え玉(具全部のせ)』(300円)/大人気の替え玉は麺の他に刻みチャーシューやネギ、海苔などがすべて入ったかなりお得な一品。スープを最後まで楽しむためにも絶対頼むべし

2013年に地元宮崎で創業し、5年後に心機一転屋号も改め八女に移転した。少しずつ少しずつ客足が増え、今では営業時間中ずっと行列が出来る人気店となった。三浦さんの次の野望は、ズバリ「博多進出」だ。

「自分ではホップステップまで来てジャンプの手前だと思っています。この店は大事にしつつも、次は博多で勝負をしたい。この味は僕しか作れませんが、博多では新しいラーメンを作って弟子を育てて、いずれは独立して自分の味を出して欲しいと思っています」。

『Wとんこつ お肉たっぷりのりたっぷり』(1250円)/「アナワシ」のスープ濃度は3段階。Wとんこつは超濃厚とあっさりの中間。トッピングはスープが見えないほどに激しく乗せられる

 

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●取材を終えて

愛すべき「豚骨馬鹿」が作る一杯

私が初めて三浦さんとお会いしたのは三年ほど前。宮崎から八女に移転されて間もない頃でした。ラーメン作りに対して真っ直ぐな姿勢と朴訥な印象は今も全く変わることがありません。言うまでもなくラーメン屋は商売、ビジネスであり、継続するためには利益や効率をある程度重視するのは当然のこと。しかし、三浦さんが作るラーメンは採算度外視かつ非効率で、正直商売としては賢いとは思えません。それでも成立しているのは、理解あるお母様と妹さんの支えがあってこそでしょう。これからもどうかご家族に感謝しながら「豚骨馬鹿」を貫き通して下さい。また八女まで食べに行きます。

【ラーメン評論家 山路力也】
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な媒体で情報発信するかたわら、ラーメン店のプロデュースなど、その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中

 

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掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。

あなたの心を鷲掴み

【所】八女市立花町原島129-1
【営】11:00~14:00
【休】月曜
【席】13席
【P】あり
カード/不可

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