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【インタビュー】映画『空母いぶき』西島秀俊さん&深川麻衣さん
「映画館を出た後に街を見て、平和のかけがえのなさを感じてほしい」

取材・文/福島大祐(編集部)
撮影/川崎一徳


『沈黙の艦隊』や『ジパング』など、海洋ミリタリー作品を多く手掛けるかわぐちかいじの人気コミックが壮大なスケールで実写映画化された。
12月23日未明、国籍不明の武装集団が波留間群島初島に突如上陸。領土の占領という脅威に、「専守防衛」を掲げる日本はどう立ち向かうのか…。

現在の国際情勢をリアルに反映し、観る者にシリアスなメッセージを投げかける本作から、航空機搭載型護衛艦「いぶき」艦長・秋津竜太役の西島秀俊さん、戦争の気配が迫り、日常が大きく変化していくコンビニで働くアルバイト店員・森山しおり役を演じた元乃木坂46の深川麻衣さんに話を聞いた。

印象的だったのは、2人が声を揃えて“何気ない日常こそ尊い”、“平和の裏でその平和を支えている人々がいる”と伝えていたこと。
未曽有の事態に直面し奔走する人々の姿から、観客はたしかに大切ななにかを感じ取れるはずだ。
—出演オファーが届いた時の率直な気持ちを教えてください。

西島:大人気作品の実写化で、その中でも秋津は凄くカリスマで人気キャラクターなので自分でいいのかという思いもありましたし、撮影中もずっとプレッシャーのかかる役でした。オファーをいただいて嬉しいというよりは、覚悟のいるお話でした。
深川:たくさんの方に愛され続けている原作ですし、今回、私はコンビニの店員として原作にはないオリジナルのキャラクターで参加させていただき、光栄に思いました。

 

—完成品を観た感想は?

西島:毎日、食事休憩は入りますが、戦闘シーンをずっと通しで撮っていたんですね。普通は1シーン撮ると10分休憩とかが入るんですけど、僕もセットから出ることがほとんどなくて。なので共演者の方と呑気に話すこともありませんでした。

本当に過酷な撮影で、でも、みんなそれだけ集中して毎日戦闘シーンを撮り続けたので、出来上がりを観て良い作品になったのではないかと、全スタッフとキャストが日々ギリギリのところまで集中した結果が出ているのではないかと思いました。

 

—緊迫するシーンが続くので、緊張感を切らさないように撮影を止めなかったんですね。

西島:そうですね。カメラマンの柴主(高秀)さんがカメラを置いてくれないんですね。一日中カメラを抱えて撮影していたので、「絶対にこの緊張感を切らさない」と考えてらっしゃったんじゃないかなと思います。

深川:色んな立場に置かれている登場人物たちが、物語が進むにつれてそれらが一つに繋がっていくんです。ハラハラするだけでなく、人間ドラマとして観終わった後に温かい気持ちになれる作品だと思いました。

—西島さんは事前準備でどんなことをされましたか? 実際に潜水艦や護衛艦に乗られたそうですね。

西島:まず空自や海自のたくさんの自衛官の方にお話を聞いて、護衛艦や潜水艦にも乗せていただいて。僕が印象的だったのは、「優秀なパイロットの条件はなんですか?」と聞いた時に、「時間をかけてベストの選択ではなくて、瞬時にベターな選択を下せる」ということと、「素直さ」だとおっしゃったんですよ。
パイロットの皆さんに会っていると、凄く素直というか、上官がいる中でも「僕はこう思います」という意見を率直におっしゃって、上官の方もそれをニコニコしながら聞いていたりとか、気持ちのいい真っすぐさがある感じがして。
秋津の持つ、なにを考えているかわからないけど、自分の信念を持って、他の人が見えなくなってるものがスパッと見えている気配みたいなものは、パイロットの皆さんにお話を聞いた経験が大きいです。
—一方、戦闘から離れたコンビニのシーンでは、有事の際の脅威をとても身近に感じられました。深川さんはコンビニのシーン全体を通して、どう撮影に臨みましたか?

深川:若松監督からは、「鬼気迫る戦闘シーンの合間に挟まってくるパートなので、明るく演じてほしい」と言われていて。思いもよらないことが起きて、日常生活が一変した時に、人々がどういう行動を起こすのか。コンビニで買い占めが起きたり、どれくらいの人が押し寄せるかということは未知数で、撮影の時もフィクションとわかっていても怖さを感じました。実際にこのような出来事が起きたら自分はどうするんだろうと、私も考えるきっかけになりました。

—役作りに関してはどのように? どんなことを大切に演じましたか?

西島:映画の中で「防衛出動」というものが発令されるんですけど、これまで日本で発令されたことは一度もないもので。その言葉の重さや、ミサイルがぶつかるシーンでも、どれぐらいの衝撃なのか誰もわからないんですね。ミサイルが当たったことがないから。「相手を撃墜する」ということがどれだけ大きいことなのか、そういうことをみんなでキチッと共有して撮影していくことを丁寧にやっていました。
日本が経験したことのない状況がずっと起き続けていて、撮影中も、その空気からどんどんキツくなっていって、僕も声が出なくなることがありました。役柄としては平然と命令しなければならなくて、過酷さとのギャップなのかわからないですけど。国の命運を背負って戦争を回避するために戦うという、非常に難しく、本当にきつい現場でしたね。

企画の福井(晴敏)さんがおっしゃっていたんですけど、「敵機を撃墜したら、アメリカの映画だったら喜ぶでしょ。でも日本は、アレ(本作でのシーン)がリアルでしょ」って。撃墜したら、事の大きさに静まり返る。自衛官は、敵が生きていたら助けようとするという、そういうリアルさが丁寧に描かれています。

深川:私は、アルバイトの役という意味では学生時代にも色々なアルバイトをしていたので、違和感や難しさはなかったです。
でも、普段は平穏なコンビニで緊急事態が起きた時に、目の前で起こることにどう一生懸命立ち向かっていくかということは意識していました。
店長役の中井貴一さんとのシーンでは、カメラが回るたびにアドリブのお芝居をされていて、毎回新鮮な気持ちで撮影することができました。

 

—西島さん演じる秋津は一見クールだけど気持ちは温かいキャラクターですが、自身と似ている部分は?

西島:いや〜…、怪物ですからね、秋津は(笑)。僕はあんなに決断力もないですし。
秋津というキャラクターは人よりも何歩も先の未来を予測して、「もうダメだ」という状況でも「こうすれば勝てる」と、危機を切り抜ける意思と力を持っている人物なので、似ている部分を探して演じる感じではないですね。まったく異質の人間で。
僕もシーンによってはどうしても追い詰められていくんですけど、監督に「ダメだ。秋津はそんな普通の人間じゃないんだから、そんなふうに追い詰められないでくれ」と言われて、「むしろ微笑んでくれ」と指示されたりとか。結構厳しく演技指導されました。
原作にもある「この人はいったいどこに向かっているんだろう」というものに少しでもにじり寄っていきたいという気持ちで演じていました。

 

—深川さんはいかがですか? クリスマス・イヴの前日に、お願いされて断れずに出勤してしまうという優しいキャラクターですが。

深川:あの店長だからこそ断れないんだろうなと思います。森山しおりというキャラクターで「しーちゃん」と呼ばれていて。
経験上、アルバイトだと「深川さん」と名字で呼ばれることが多かったんですが、あんなにフレンドリーで、お客さんのためにメッセージカードを書くような愛情のある店長に言われたら、断れないだろうなって。
これから戦争が始まるかもしれないという状況で怖さもあると思うんですけど、店長がいるからこそしおりは頑張れたのかなと思います。

西島:大事な時に店長は結局寝てましたけどね(笑)。

深川:たしかに(笑)!

西島:劇中に出てくる、クリスマス・イヴのお客さんへ向けたメッセージカードは実際に貴一さんが書かれていて、文面も監督と相談して決められていたそうです。素敵ですよね。僕も好きです、コンビニのシーンは。

—この作品を通して、平和について意識が変わった点はありますか?

西島:たくさんの自衛官の方のお話を聞いて、やはり皆さん、任務のことは家族にも言えないし、海自の方なら任務に出れば何カ月も家に帰れないわけで。
だから「家を出る時は必ず笑顔で出る」とおっしゃっていました。その任務の重さや背負っているものの大きさみたいなものを感じて、僕たちが今こうやって平和に過ごしていることも、そういう方々によって成り立っていて。
この原作は数年前から書かれていますが漫画の内容にどんどん現実が追い付いている中で、映画のような状況になった時に、誰が平和を守るのかということを色々改めて考えましたね。今の平和の大切さを凄く感じました。

深川:起こってしまうことは一人の力ではどうしようもないかもしれませんが、この映画を観て、一人ひとりの些細な日常の幸せだったり、友だちや家族、恋人を大切に想う気持ちを、将来に繋げていくことが大切なのかなと思いました。
毎日同じことを繰り返していると、幸せってなかなか気づきにくいですけど、この映画を観た後は、平穏な生活ができていることは凄く恵まれた幸せなことなんだと、改めて考えるきっかけになりました。
この映画を観てくださった方の心に、少しでもなにか残ったら嬉しいなと思います。

 

—日々平和に過ごしている我々日本人に、大切なことを伝えてくれそうです。

西島:毎日、スタッフ・キャストが必死に撮影したので、良い作品になったと思っています。
ぜひ劇場に来ていただいて、手に汗握る映画の面白さと、そして映画館を出た後に街を見て、日常の平和のかけがえのなさを感じていただけたらと思います。
深川:男性はもちろんですけど女性にも楽しんでいただける作品だと思います。年齢問わず、色んな方に映画館に来て楽しんでいただきたいです。
日常の幸せや周りの人の大切さを改めて気づかせてくれる作品だと思うので、ぜひ大きなスクリーンで楽しんでください。

©️かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/『空母いぶき』フィルムパートナーズ

■映画『空母いぶき』公開中
https://kuboibuki.jp/

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