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【インタビュー】西川貴教「『あいつ、いつまでいるの?』って言われるぐらいで、ちょうどいい」

取材・文/福島大祐
撮影/内田達也
取材協力/HAKATAGAWA(福岡市博多区下川端町3-2 ホテルオークラ福岡 1階)

’90年代から数々のヒット曲を世に放ち、今なおシーンの最前線で活躍中の西川貴教。T.M.Revolutionをはじめ、abingdon boys school、地元・滋賀での主催イベント「イナズマロック フェス」のオーガナイザー、俳優、声優などいくつもの顔を持ちながら、3月、「西川貴教」として初のアルバムをリリースした。今回福岡を訪れた西川に、音楽の話はもちろん、精力的かつフレキシブル、マルチなその仕事ぶりに注目し、多くの問いを投げかけたところ、返ってくる言葉は「続けたいという想いだけで続けられる仕事ではない」、「やり続けていないと不安」という徹底されたプロ意識や危機感に裏付けされたものだった。音楽を軸に据えて形成されていった情熱的な西川流メソッドは、我々に多くの気づきを与えてくれるはずだ。

■舞台やお芝居、バラエティ、ロケでのグルメリポートなど、全ての経験が歌に返ってくる。どこまでいっても軸足は音楽

 

—本名名義での1stアルバムをリリースということで、Twitterでは「新人の西川」と自ら発信されていましたね。このようなプロモーションで福岡を周られるのも久しぶりではないでしょうか?

西川:どれくらいぶりだろう(笑)。長いことやらせてもらってないんじゃないんですかね。福岡はツアーや、昨年は舞台で頻繁にお邪魔させていただいているので、訪れること自体はそんなに久しぶりではないのですが、今の時代はWEBで音楽が買えたり、自分から出向かなくてもなんでも手に入る時代ですが、結局受け取る方もそれを運んでくださる方も“人”なので、そういった方々の想いを考えて、自分が出向いて手に取っていただきやすくする努力はするべきだと思っています。T.M.Revolutionデビュー20周年ツアーで2年かけて全国を2周したんですね。どの会場にももちろんそうですが、デビュー当時にお世話になったレコード店の方や媒体の方が足を運んでくださって、「おめでとう!」と言ってくださる。そういった方々のお気持ちで僕自身続けてこられたと思うので、お仕事を引退された方々や、ご時世でレコード店自体が無くなっちゃって、「前に来てくれたお店はもう無いのよ」なんて仰っている姿を見ると、寂しく感じます。それが世の常だとか致し方ないんじゃないかという意見もあるとは思いますが、やっぱり人を介して人に届けるものなので、人に返したいという気持ちが大事なんじゃないかなと思いますね。

 

—インストアイベントやCDのお渡し会もされていましたが、なにか印象的なことはありましたか?

西川:今年で3年目に入るのですが、NHK Eテレでレギュラー番組をやらせていただいていて。でも、日常の中で小さなお子さんと触れ合うことなんてなかなかないじゃないですか。ですが、今回のようなリリースイベントをやらせていただくと、お子さん連れで来てくださって、小さなお子さんが「頑張ってください」って言ってくれるんです。番組が3年目に入るにも関わらず、自分がそんな風に認識されている実感ってなかなか味わうことができないので、ものすごく新鮮で。心の底から「早く大きくなって、もっとライヴ観たいとかCD欲しいって思いなさい」って思いましたね(笑)。でも、自分がデビューした当初に10代で応援されていた方々が家庭やお子さんを持たれて、子育てや家庭の事情でなかなか自分の時間を取れない中でも、番組を通じてもう一度僕に触れてくださる機会があって、今度は親子で会いに来てくださるというのは、続けてこないと見られなかった景色だし、音楽だけをやっていたら味わえなかった経験だと思うんです。それはすごく自分にとって財産だと思うし、その景色を見に行く機会があったからこそ見られたので、こういった機会を持てて良かったと思います。

 

—現在の西川さんは、ファンの世代ごとに違った印象を持たれているでしょうね。

西川:そうですね。年配の方は僕のことを「消臭力の人」だと思っていると思います(笑)。20〜30代とか、それ以上の方はそれなりにこれまでの経歴をご存知かとは思うのですが、10代の方はそういった番組を通じての印象も強いかとは思いますね。最近はそれらの活動に加えてイベントのオーガナイズというか、地元の滋賀でやっている「イナズマロック フェス」の印象も大きくなっているかもしれません。それは僕がというより、そのイベントを目指して頑張ってくれている後輩たちや、そのイベントをきっかけに大きくステップアップした頼もしい仲間たちがイベントの価値を引き上げてくれて。そういったものに夢を感じてくれる仲間たちのおかげだと思います。

 

—アーティスト活動の他にそういったイベントの運営、俳優、声優、経営など、実に多面的な活動をされていますが、そのバイタリティーの源はどこにあるのでしょうか?

西川:こういった仕事は楽しいですが、続けたいという想いだけで続けられる仕事ではないじゃないですか。求めてもらえないと続けられないし成り立たないことなので、人に期待してもらえることって凄くありがたいことだなと実感しています。人に喜んでもらうことがすごく好きということが一つあるのと、自分にとって舞台やお芝居、バラエティー、ロケでのグルメリポートなど、キャラではないこともやらせてもらっているんですけど、いろんな経験が歌に返ってくると思ってやっています。どこまで行っても軸足は音楽にあるし、音楽をやっている時が自分にとって一番大事な時間だと思っているので、そこが結果的に豊かになって、表現者としてちゃんと伝えられることが大事だと思います。一年に一枚アルバムを出して、ワンマンツアーをやって残りの半分は海外で過ごしています、みたいなものを目指していたはずなのに、なんでこんなに馬車馬みたいに働かされているんだろうって、自分でまったく理解できないんですけどね(笑)。

■ロックフェスに呼ばれない側だったので、だったら自分で作った方が早いなと。居場所は自分で作っていくしかないんです

 

—人間なので当然「休みたい」とか「サボりたい」と考えることもあると思いますが、多忙な日々の中、そういった自分の弱さとはどう戦っていますか?

西川:むしろ危機感の方が強くて。いつ「お前いらねえよ」って言われてもおかしくないと思うので、やり続けていないと不安なんでしょうね。長期の休みも30年近いキャリアの中で取ったことないし、3日経つと不安になって「なにかやらなきゃいけないことないの?」って会社に電話しちゃうし(笑)。何も無い日が本当に無くて、目に見えているもの見えてないもの含めて、だいたい5〜6コぐらい同時に進んでいるものを跨いでいるんですよね。音楽があって、お芝居があって、年内や来年の作品が決まっていたりその準備もあったり、イナズマもあってその派生イベントの準備もあるし。今だったらツアーもあるのでその準備、そしてそのツアーの中でも演出面含めて台本の叩きから考えて落としてやっていたりとか。一つが走っている間に他の仕事のための打ち合わせの会食とかミーティングが入ってくるので、そうするとだいたい予定が埋まっちゃうんですよね。

 

—外から見ていると輝かしいキャリアを築かれていて、もう安泰なんじゃないかと感じますが、今も不安な気持ちを持たれていることに驚きました。

西川:続けたいという想いがあっても続けられなかった人たちをたくさん見てきたわけじゃないですか。それを見せられたら、どんどん不安が増します。続けば続くほど。

 

—後輩たちからすると、先輩の西川さんがそこまでアグレッシブに活動されているのは大きな刺激になりそうですね。

西川:そう思ってくれていたらいいですね。「早く辞めればいいのに」って思っているかもしれないけど(笑)。ただフェスでいうと、昨今は複数のアーティストが出るちょっとしたイベントも総称して“フェス”って呼ぶようになっていて。かつ、イベントの大小はあるにせよ、アーティスト主催でイベントを行うことも増えていて。すごく良いことだとは思うんですが、続かないものも多いし、その中でどうやったら魅力的なコンテンツとしてあり続けることができるのかを真剣に考えなければならないと思います。単にキャスティングして、参加して楽しいっていうだけじゃなくて、出演するアーティストのみんなには、出ること以上の価値を見出してほしいし感じてほしいという想いがあります。単独で何箇所も大きな会場をいっぱいにできるアーティストがわざわざフェスに出るっていうことを考えた場合に、他のフェスよりできるだけリーズナブルにしているつもりでも、単独ツアーのチケットの倍額ぐらいだとすると、自分のご贔屓のアーティストが観られる時間はそのチケット代に見合った時間ではないじゃないですか。じゃあなんのために観に行くのか、出る側もなんで出るのか。やっぱり、そのイベントに出ることで新たな発見だったり、チケット代やギャランティ以上の価値があるから観に来てくれるし出演してくれると僕は思っています。そんな時に自分が怠けていたり、僕自身が魅力のない人間でいると、「このイベント出る意味ないんじゃない?」って言われちゃうと思うんです。だから、先輩とか後輩とかキャリアとか関係なく、こういった自分を見てくれる、「やってやろう」と思って来てくれる仲間たちがいるから続けられていると思うし、「でっぷりとお腹も出て、そのくせ偉そうにしている自分」なんて考えたくもないし。だから「あいつ、いつまでいるの?」って言われるぐらいで、ちょうどいいんだと思います。

 

—「イナズマロック フェス」がここまで盛り上がり、ずっと継続されているのはそういった姿勢やマインドからなんですね。

西川:そうですね。昨年の10回目は、本当に全部がドラマチックでした。そうさせてくれたのも仲間たちだし、僕が作ったのではなく、みんながこのイベントに価値を見出してくれたから、僕はその場所を提供しているだけ。2日間のイベント両日とも僕がトリを務めていた時期があったんですけど、僕はとっととやめたくて。その時期に頑張っていたり、なんならトリを目指してやってくれている仲間がそのイベントを背負って最後のステージを飾ってくれるような、そんな頼もしい仲間たちにどんどん渡したかったんです。なんなら僕、最終的には出なくていいと思っているぐらいで。もっともっとこれから続けていって、僕が始めたって誰も知らなくなってもいいぐらいです。イナズマが手のかからないものになった時にはありがたくみなさんのものにしていただいて。そうしたら、僕は別のことに目を向けられたりすると思うし。そうやって、自分で自分の居場所を作っていく。あまりロックフェスに呼ばれない側だったので、だったら自分で作った方が早いなという発想でしたね。誰かが作ってくれるものじゃないとしたら、自分で作っていくしかないんです。

 

—そういった想いからか、「イナズマロック フェス」のラインナップは本当に毎年幅広くてユニークなジャンルの方が揃っている印象です。芸人さんも登場しますし、観覧無料のステージまであります。

西川:未だに言われるのが、「こんなメンツで“ロックフェス”と名乗るな」なんですよね。もともと、音楽ジャンルとしての「ロック」の意味で名付けていませんし、「初年度からそうなんだからいい加減慣れてくれ」と言いたいです(苦笑)。

 

—音楽イベントを越えて、地域の文化になってきているのかなと感じます。

西川:昨年は一年を通しての滋賀県の催し事の一つとして紹介していただいて。行政が運営に携わっているのは全国的に見ても珍しいと思います。本来行政は、住民のみなさんからの、騒音だとか渋滞だとか、違法駐車が増えているだとかを受けて、それをイベント主催者側に監督する立場なんですけど、うちは、行政がこちら側の味方なんです。それは本来は相当覚悟が必要だと思うんです。「万が一のことがあった際には責任を一緒に背負いますよ」と言ってくださっているということだと思うので、その分僕も腹を括ってやることができましたし、ここまでの規模になったのは、そういった陰で支えてくださっているみなさんのおかげだと改めて思います。

■ソロ活動は、いろんなものをこれまでの活動やキャリアに反映させるための自分自身の挑戦だった

 

—最新作についても聞かせてください。リリースから少し時間が経ちましたが、今回の「西川貴教」としての1stアルバムは改めてどんな一枚になりましたか?

西川:ずっと応援してくださっているみなさんからすると、「これまでの活動にストレスがあって、それで新しいことを始めたいと思ったんじゃないか」と考えると思うんです。でも、このプロジェクトのスタートを発表した時からリリースを続けて、結果的に西川貴教としての宣誓になったかと思います。聴いていただいて、一緒にこのアルバムを作ったみなさんのラインナップを見ていただくと、今回のアルバムをきっかけに新たにクリエーションする仲間として出会った方もいれば、これまでの僕のキャリアの中で出会ってきた繋がりのある仲間たちがたくさん協力してくれて、それによりできあがっているようなものだと分かってもらえると思うんです。これまでの活動にストレスを感じて新しいことをやりたいという欲求で始めたことではなくて、自分自身がもっと磨かれるというか、後にいろんなものをこれまでの活動やキャリアに反映させるための自分自身の挑戦という意味合いを、ちょっと時間はかかりましたけど伝えて、また感じ取っていただけたことで、当初SNSなどでネガティブな発言が見え隠れしていたものが、リリース後は一切無くなりましたね。みなさんもすっきりしていただいたというか、「あ、そういうことじゃなかったんだ」って。T.M.Rやa.b.s、そういったこれまでのキャリアや活動を畳んで始めたわけではなくて、あくまで自分の中での3つめのチャンネルとして存在するだけなので。体は一つしかないものですから、やれる期間と時期が限られてしまっているので、その時そのタイミングでその表情でいるだけなんですよってことを、このアルバムを通して確かめていただくこともできたと思います。だからこそ、これまでのキャリアのどれとも違うものがちゃんと出せて、みなさんにお届けすることができたかなと。「これをやるならバンドでよくない?」とか、「T.M.Revolutionでもいいんじゃないの?」って思われたら、みなさんハテナが大きくなると思うんですけど、「これをやりたいんだったら、このやり方しか無いね」って思っていただけたんじゃないかな。

 

—アルバムの中では、布袋寅泰さんのようなレジェンドから、Fear, and Loathing in Las Vegasといった若手のアーティストまで幅広い世代のクリエイターの方々が、それぞれのカラーを出した曲を、まるで大喜利のように西川さんに提示されています。

西川:無理問答ですよね(笑)。でも、音楽で会話するっていうんですかね、それも醍醐味だと思うし、僕らみたいな人間が単に若手をフックアップするわけじゃなくて、もっと同じ目線でものを見られるようにやっていかないと、世代による歪みみたいなものも起きやすいし、実際に起きているじゃないですか。今は、これまで既存のメディアが扱わなかったような動画配信から火がついて、しっかりライヴをやったりツアーをやっていたり、みんなの知らないところできちんと一つの文化として形になっていると思います。そのことに対して我々世代が拒絶することは簡単だと思うんです。だけど、知らないと本当の意味での自分の中での価値って分からないと思うんです。「よく分からない」、「知らない」、「らしいよ」、「じゃないの?」って片づけることは簡単だとは思いますが。

 

—さて、いよいよツアーが始まります。福岡はツアー初日で、しかも会場はZepp Fukuoka。ライヴハウスの規模で西川さんを観られるのは新鮮です。

西川:正直もう一度ゼロからライヴのスタイルを作らないといけないのは結構しんどいし、何をやったらいいんだろうって思います(苦笑)。結構いろんなことをやりつくしてきたから、余計に自分にも新鮮味が無いと…というのもあって、ものすごく苦労しています。

 

—では、ツアー初日のZepp Fukuokaに立っている時の西川さんは、内心とてもドキドキされていらっしゃるんですね。

西川:昨年のイナズマ初日が「西川貴教」として人前で初めてパフォーマンスする機会だったんですけど、初日の記憶無いですよ(笑)。2日目は逆に力が抜けて楽しめたんですけど、今回はツアーという形で西川貴教としてステージに立つということで、それぐらい緊張しています。これまで応援してくださったみなさんも、もう一度イチからサポートをお願いします(笑)。みんなで楽しみ方を見つけて欲しいし、僕ももっともっと楽しめるものを、そして僕自身のライヴの楽しみ方を早く見つけられるように、その準備をしている最中ですけど…いや〜、緊張しますね(笑)。

リリース情報

Album『SINGularity』発売中

初回生産限定盤(CD+DVD) 3704円+税
通常盤(CD) 2778円+税

ライヴ情報

日時 2019年4月13日(土) 17:00開場/18:00開演
会場 Zepp Fukuoka
料金 6800円(1ドリンク別途/3歳以上有料)※チケット発売中
問合せ 0570-09-2424(キョードー西日本)

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◎西川貴教
http://www.takanorinishikawa.com/

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