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【インタビュー】映画『ツユクサ』小林聡美×平山秀幸監督「この作品がもし恋愛映画だとするならば、違う形の恋愛映画という気がします」

『愛を乞うひと』(’98)、『閉鎖病棟 −それぞれの朝−』(’19)の平山秀幸監督が、旧知の仲である脚本家・安倍照雄によるオリジナルストーリーを映画化。漁港のある田舎町に暮らす主人公・五十嵐芙美が、大人の視点で人生を優しく見つめ直すヒューマンドラマだ。日常の中のささやかな希望に気づかせてくれる本作について、主演・小林聡美と平山秀幸監督に話を聞いた。

左から小林聡美さん、平山秀幸監督

痛みを持っている人たちが集まっても
「痛みの大安売り」みたいなことはしたくなかった。

 

―平山監督の前作『閉鎖病棟 −それぞれの朝−』にも小林さんは出演されていましたね。

平山:『閉鎖病棟 −それぞれの朝−』で出会った時には今回の役のイメージが固まっていました。それで小林さんにオファーさせていただいたんです。私の世代的には小林聡美さんといえば『転校生』というイメージでしたが。

 

―主人公の五十嵐芙美は50歳を前にして人生の小休止をしているように見えました。小林さんにとって日々の小休止をしたい時の心の拠り所は?

小林:小休止したいと思うほどがむしゃらに走り続けていないんです。しょっちゅう小休止しているので(笑)。特に若い頃よりも仕事以外の時間を楽しむ余裕が持てているし、若い頃にはできなかったことをやったりするのが今はとても楽しいです。

 

―では、日常生活の中で怒りや悲しみの感情とはどう向き合っていますか?

小林:怒りや悲しみの感情に支配されないようにしています。世の中や社会の出来事に対して憤りや悲しみを感じることはありますが。自分に関することだったら気持ちを切り替えて、なるべくすぐに手放すようにしています。怒ったりすることもそんなにないかもしれません。

 

―主人公の芙美からはスローライフ的な生き方を感じましたが、小林さんもこれまでそういった作品と縁が深かったように思います。そのような丁寧な暮らしに対する考え方は変化してきましたか?

小林:丁寧な暮らしは、私も目指したいところですが、あまり気負わず、それまで雑にしていたことをちゃんと自分で納得できるようにやってみようかな…とか。そういった時間の過ごし方を意識するようにはなりました。

 

―『ツユクサ』はラブストーリーの側面もありましたね。松重さんとの恋愛模様が印象的でした。

小林:松重さんは饒舌に語らずともいろいろ表現できる素晴らしい俳優さんだと思っていました。実際にお会いしてみても、どれが本当の松重さんなのかつかみどころがなくて、それがこの作品の中の二人の関係性においても逆に良かったのかもしれませんね(笑)。ミステリアスなまま、よく理解し合えないままの面白さといいますか。ラブストーリーはこれまでにほとんどやってこなかったのでチャレンジでもありました。ただ、それも作品の中の1つのエピソードとして、あまり恋愛だけにこだわらないで演じようと思いました。

 

―監督が小林さんと松重さんに求めたものはなにかありますか?

平山:松重さんと話していたのは、「髪の毛黒くする? 白くする?」みたいなことで、小林さんと話したのは「髪の毛切る? 切らない?」といったことぐらいで(笑)。台本を読んだ時にこの作品の世界を理解されていました。お二人に関してはものすごく安心感がありました。「小林さんそこは違うよ!」みたいなことは一切なかったです。お二人が台本を読んだ時に考えられた空気感やその佇まいを撮ればいいと思っていました。恋愛映画と言われますが、撮りながら「これ本当に恋愛映画なのかな?」と。もし恋愛映画だとするならば、違う形の恋愛映画という気がするんです。結果を求めない恋愛というかな。「うまくいこうがいくまいが、ジタバタするのやめよう」みたいな空気でした。以前は「おじさんおばさんのキラキラ映画にしよう」なんて話したりしてました。一緒に砂浜を走ってスローモーションで撮ったりとか(笑)。

小林:アハハハハ(笑)。面白い。

 

―今作の登場人物たちはどこか傷や痛みを抱えていましたね。大人は誰しも大なり小なりそういったものを持っていると思いますが、お二人はどうお考えでしょうか。

小林:傷や痛みのない人生はありえないわけで、痛みを含めて、生きていくってそういうことなんだとだんだん分かってきました。その分、楽しいことは本当に味わいたいと思うし、歳を重ねると喜びや悲しみといったことを少し俯瞰して見られるようになってくる気がします。

平山:おそらくいろんな痛みというものは、他人が同調しても同化は絶対にできないわけじゃないですか。せいぜいなにかできたとして、見守ることぐらいではないでしょうか。この映画の中でも痛みの大安売りみたいなことは絶対にしたくなかったんです。

 

―観る人の年齢や状況によって感想が少しずつ異なる作品だと思います。この作品が持つメッセージのようなものをどう解釈されていますか?

小林:人生って、いろんなことがこうやって巡っていくんだと、温かい味わいを感じました。今日の先行上映会には小学生ぐらいの子どももいて、どう感じたのかインタビューしたかったです。私は巡っていく人生の愛おしさを感じました。

平山:僕は映画を作ってメッセージというものはほとんど発信しないんですけど、「いろんなことがあるよね。ボチボチいきましょうや」ということかな(笑)。

 

■映画『ツユクサ』 / 上映中

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