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【インタビュー】きのこ帝国「走馬灯のように人生をギュッと凝縮したようなアルバムになった」

取材・文/福島大祐(編集部)
撮影/内田達也

シューゲイザーやギター・ロックに括られることの多かったきのこ帝国が、昨年バンド結成10周年を迎え、改めて「音楽というものは誰かを弾いてしまってはよくない」、「いろんな人がいろんな場面で聴けるような音楽を作りたい」という根源的欲求に直面し、完成させたのが最新作の『タイム・ラプス』だ。そんな風通しの良い3rdアルバムや自身の意識の変化について、フロントマンの佐藤千亜妃に語ってもらった。

—佐藤さん個人としては、今回のアルバムの前にソロとして1st E.P『SickSickSickSick』をリリースしたばかりですね。

佐藤:今年の1月に入ってから制作を始めたので、ソロの制作とは重なっていませんでした。ちょうど制作時期が外れてくれたので、良い感じのスケジュールでしたね。

 

—きのこ帝国よりもアーバンなサウンドでしたが、ソロの作品を作ったことでバンドへの影響はなにかありましたか?

佐藤:ソロの方では打ち込みっぽいことをやっていて。今までバンドがバンドっぽいことをやるのをあまり面白いとは思わなかったんですが、ソロがああいった作品だったこともあってバンドはバンドらしい音でやりたいなという気持ちが初めて出てきて。なので今回のきのこ帝国のアルバムは素直なギター・ロックだったりギター・ポップだったり、バンドサウンドが全面に出たアレンジになったと思います。

 

—日常を肯定してくれるような優しさ、温もりがある作品だと思いました。前作の『愛のゆくえ』はリード曲が映画主題歌ということで、制作において映画がリードしてくれた部分が大きかったと以前話されていましたね。今回はどのように制作していったんですか?

佐藤:1月中に18曲デモをあげてくれと言われてかなりタイトなスケジュールの中で曲を作って、メンバーは個々でアレンジを進めてくれている中であまりこねくり回す時間もなくて、ピンときたものを直感でアレンジしていったり、言葉選びは最も凝ったんですけど、毎日のようにスタジオに入る感じだったので半年ぐらいはずっと休みなく作っていました。間に全国ツアーの後半戦が挟まっていたので、時間がない中でそれぞれの直感を信じながら進んでいた制作でしたね。

 

—衝動的に出たものをパッケージしていったような感覚でしょうか?

佐藤:衝動的な部分と、10年間このメンバーでバンドを続けてきているので、その積み重ねもあってそれぞれの癖を把握していたりもするので、「こういう風にアレンジしたら他のメンバーはこうアレンジを返してくるかな」というのも見えていたので、あまり突拍子もないことはやらずにお互いの癖を理解しつつというアレンジで、結成してからの積み重ねを感じるような時間でした。

 

—オフィシャルホームページの中で、「10年前だったら使わなかったような言葉が今作は多用されている」と言う旨の発言がありましたね。その理由はなんでしょう?

佐藤:いろんな人がいろんな場面で聴けるような音楽を作りたいなという思いがここ2年ぐらい強くなっていて。夜に一人でヘッドホンで聴いて浸れる音楽も凄く好きだし、そういうものを作ってきたという自負もあるんですけど、次はもう少し開けたところに行きたいなという思いもあって、歌詞に関しても押し付けがましい表現ではなく「こうとも取れるしこういう風にも取れるよね、悲しい時に聴くと凄く癒される気持ちになるけど、元気な時に聴いてもなんだか今の自分を肯定してもらえたり、日常を大切にできるよね」というモチベーションで聴いてもらえる曲が欲しいなと思って、多角的でいろんな感情を内包した曲を意識的に書きましたね。

 

—より普遍的な、いわばJ-POPを目指した?

佐藤:そうですね、音楽というものは誰かを弾いてしまってはよくないと思っていて、やっぱりどんな人でも聴けるものが根底にあってほしいので。どんな人でも感動できるような、心に響くような音楽を作りたいなと、今までで一番意識して作りました。作曲的にはこれまでやってこなかったようなコード進行だったり、新しいチャレンジもしていて、それでもメロディーの聴きやすさを大切にしていたんです。

 

—音作りの面でこだわったところは、なにか具体例があれば教えていただけますか?

佐藤:私、ドラムが好きなので他のバンドでもつい見ちゃうんですけど、ウチのドラムの音作りが年々上手くなっていってるなと思っていて、今回キラキラとした部分や爽快感が音にちゃんと出ているのって、今までとはちょっと違うアプローチだからギターやベースのフレーズが前に出てきていて。ドラムがかなりサウンドに貢献している感じがします。ただ、サウンドは今までで一番、ライブでやっている素のままの音がパッケージに封じ込められているかなと思いましたね。

—アルバム名の『タイム・ラプス』は、「時の経過」と訳していいんですか?

佐藤:「タイム・ラプス」はケータイにそういった名前の機能があって、調べたらそれは「コマ撮り」というような意味があるらしくて、それを知った時に、今回の曲が並んだ様子が凄くコマ撮りみたいだなと思ったんですよ。人生の思い出のワンシーンワンシーンが切り取られて並んでいるかのような。通して聴いた時に走馬灯のように人生をギュッと凝縮したようなアルバムになったかなと思ったので、こういったタイトルにしました。

 

—前作は死生観を歌ったアルバムだったと思いますが、比較すると今回は“生”に寄っているのかなと思いました。

佐藤:今回は青春っぽくてキラキラしたものを作りたいという思いがあったからですかね。結果的に人生の苦味や痛みだったり、そういった深みが出た作品になったんですけど、闇より光の側面がサウンド的には強く感じるようになっているかなと思いますね。

 

—今、改めて青春にフォーカスした理由はなんですか?

佐藤:理由って言うと浅いかもしれないんですけど…、前作を作っている時に映画の『君の名は。』が公開されていて、前作はとてもディープだったので結構精神を持っていかれていて、息抜きのような気持ちで映画館に行って観て感動したんですね。そこで、『前前前世』がとてもキャッチーでポップで、凄くキラキラしていて。そういうのをきのこ帝国はやったことがなかったと思って、もっと新しい扉を開きたいなという思いが出てきて、それで次はキラキラ感とか青春感に取り組んでみたいんだという話をメンバーにしました。

 

—今作は感傷的に過去を振り返るような言葉が多く見られますが、それはバンドのアニバーサリーも要因の一つですか?

佐藤:そうだと思いますね。去年10周年を迎えて、ツアーを回って1年間過ごしていたわけですけど、そんな中でバンドを辞めていく友だちもいたり、夢を諦めて仕事を優先しないといけない友だちを見たりして、「バンドをやりながら生活ができているというのはとても恵まれた環境だな」と思ったのと同時に、夢を追いかけることって本当に大変だなというのが身に染みてわかる歳になって、最後の『夢見る頃を過ぎても』みたいな曲が生まれて。過去を振り返る場面は多くありました。

 

—ちなみに佐藤さん自身はもうすぐ30歳を迎えるわけですけど(※取材時)、なにか感慨深いものなどありますか?

佐藤:この10年間は楽しいことも辛いこともたくさんあったんですけど、一瞬で過ぎていったなと思っていて。20代後半の過ごし方って、若い時には辛いと思っていたことが「そんなに考え込むことでもないよな」と思えたり、人と関わる時に気持ちに余裕が出てきたりとか、いろんなことが楽になっていった側面があったんですね。そう思うと30になったらもっと人生を楽しめそうというか、ここからまた始まるじゃないですけど、新しい自分の考え方でもっと面白いことができていくんじゃないかなという期待が凄くあります。

 

—余裕というのは今回のアルバムにも通じる部分がありそうですね。カッコつける必要がなくなってきて。

佐藤:若い頃はおしゃれしたりカッコつけたいという気持ちがみんなあったと思うんですけど、ある程度自分の活動ややり方に自信がついてきたら、着飾らない方が伝わるものもあるよなと気づいて。根本の部分を見つめる作業になっていくんだろうなと思いますね。

 

—「あの人、TシャツにGパンだけどいつもカッコいいんだよな」みたいな。

佐藤:そういうのが最終的な憧れではありますよね。凄くスタイルがいいんでしょうね、その人は(笑)。そんな人間になっていきたいですよね。

 

—ちなみに、今後は福岡でのライブは決まっていないんですか?

佐藤:まだ決まっていないですね。ただ福岡は本当に好きなので、プライベートではまた年内に来ます。友だちとグルメ旅です(笑)。

リリース情報

Album『タイム・ラプス』/発売中

初回限定盤(2CD)3500円+税
通常盤(1CD)2800円+税

■きのこ帝国 http://kinokoteikoku.com/

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