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直方市『エンボるスクール』レポート vol.2 もやもやした「やりたいこと」の具現化を目指す!

自分のスキルを活かして社会に貢献する仕事がしたい。そう考えている人は多いだろう。しかし実際は何から始めればいいのか分からず、行動に移せない人がほとんど。そんな誰もが抱える「もやもや」を具現化するスクールが、直方市のアーケード商店街「ふるまち通り」で行われている。

〔写真〕講師の田村晟一朗さん(左)と小友康広さん(右)

9月17日に始まった『エンボるスクール』は、直方市の中心市街地活性化を目指し、街の“人財”を発掘し、まちのプレイヤーになれるよう育成していくスクール。全国で活躍するまちづくりやビジネスの専門家が講師となり、11月26日までの全6回で、融資、広報、募集などに使える実践資料を完成させ「やりたいこと」の具現化を目指す。

 

ふくおかナビでは、この取組みに注目し、現場の様子をレポート。今回は、10月15日に行われた第3回の模様をお届けする。

〔写真〕会場となったのは商店街にあるレンタルスペース&バー『Bouton』

〔写真〕サテライト会場は『Bouton』2Fのコワーキングスペース『SwitcH』

この日の講義には14名のスクール生が参加。学生から会社経営者まで、さまざまな人が集まり、メイン会場とオンラインの半々に分かれて実施された。

前半は、前回の課題へのフィードバック。参加者たちがまとめた企画書に対し、スクールのメンター(指導・助言役)を務める、北九州市の建築家・田村晟一朗さんが、賞を贈る形でコメントした。

〔写真〕リノベーションまちづくりの分野で全国的に活躍する田村さん

例えば、『波及賞』に選ばれたカメラマンの女性は、動物愛護リテラシーの向上を目指して、保護動物の写真撮影を行い、広報を支援するという企画を提出。これに対し田村さんは「自身が撮影するのではなく、愛護団体の人々の写真スキルを上げた方が、波及効果が高いのでは」とアドバイス。

また、直方に屋台村をつくる企画を提出した、建設会社経営の男性には、田村さんが“一枚噛ませて欲しい”くらい実現性が高いとして「かてて賞」を贈った。さらに、企画書では設備投資に400万円かかる計画を立てていた男性に「いきなりコストをかけず、まずは簡易的に出店してファンを獲得しながら実現を目指しては」とアドバイス。まちの人々を巻き込んで屋台づくりに参加してもらうなどのアイデアを提供した。

〔写真〕『Bouton』を運営する清水舞子さん(右)と永久真弓さん(左)

 

テーマは『リスクヘッジからの発想の転換』

パラレル経営者・小友康広さんのトーク

この日のメインイベントは、岩手県花巻市で、リノベーションを活用したまちづくりを実践する、小友康広さんによる講演。第一線で活躍するプレイヤーの生の声が聞けるチャンスとあって、参加者は熱心に聞き入った。

〔写真〕小友さんは東京と岩手で異業種6社を経営する

岩手県花巻市にある老舗木材店の4代目に生まれた小友さんは、大学卒業後、家業を継ぐまでの修行のつもりで、東京のITベンチャー企業に入社。数々のプロジェクトを成功に導き、2009年にはグループ会社の執行役員となって、2011年には取締役に就任、2014年には親会社の東証一部上場を経験している。2014年に家業である小友木材店の代表取締役に就任したが、東京の会社は辞めずに、現在も2拠点を行き来し活動中だ。

小友さんが地元で、はじめに取り組んだのが、花巻駅前で空き家と化していた自社ビルの再生。築53年の4階建て。年間33万円の固定資産税がかかる赤字ビル。取り壊して駐車場にしようにも、投資回収だけで55年かかることがわかり、頭を抱えていた矢先に、花巻市で開催された『家守勉強会』に参加する機会を得て『リノベーションまちづくり』に出会った。

『リノベーションまちづくり』とは、半径200mのエリアを設定し、そのエリアの遊休不動産をはじめ、人や歴史、文化などの「まちのリソース」を活用して地域の課題を解決する手法のこと。補助金に頼らず、低コスト・低リスク・スピーディーに事業を生み出すために「リノベーション」を用い、得た収益をエリア内に再投資することで、サステナブルなまちづくりが可能であるとして、近年盛んに行われている。

それを率先して行う民間の「家守会社」の存在を知った小友さんは、2015年に3人の仲間たちと株式会社花巻家守舎を設立。「家守」とは、江戸時代に地主に代わって土地や建物を管理し、家賃などの徴収を行っていた民間人のこと。同様の転貸事業でまちをプロデュースする現代版の家守が「家守会社」と呼ばれるまちづくり団体だ。

〔写真〕『Bouton』は商店街で何かはじめたい人の拠り処

そこで重要になるのは、エリアビジョン。同手法の第一人者・清水義次氏が提唱する「敷地に価値なし、エリアに価値あり」という言葉にならって「小友ビルのある花巻駅前エリアをチャレンジする大人が集まるまちにしよう」と奔走し始めた小友さん。

まずは花巻で自分たちが一番イケてると思った飲食店のオーナーに声をかけ、ビルの1階を希望の家賃で貸し出し、5年で投資回収出来る範囲でオーナーが希望したビルの改修を行い、電源とWiFi無料のカフェ&バーをオープン。さらに2階には花巻家守舎の創業メンバーが運営するヨガスタジオ、4階には家守舎が経営するコワーキングスペースを開設。投資総額の700万円を8年で回収し、それ以降は収益を生み出す新しいビジネスを生み出した。このような取り組みを継続的に行った結果、小友ビルのある花巻駅前エリアには、約2年で起業する人や働く人が30人以上増えたのだそうだ。

〔写真〕小友ビル1Fにオープンしたカフェの様子

「半径200メートル」とは、徒歩5分圏内のエリアのことを言う。これはイオン一個分相当の広さにあたり、行動学上、人が気持ちよく歩ける範囲なのだそう。そこをどんなエリアにしていくのか統一のビジョンを掲げ、共感して集まってくる人を増やしていく。「重要なのは建物のリノベーションではなく、コンテンツをつくること。まちの最大のコンテンツは人なんです」と小友さんは語る。

まちの歴史や文化を受け継ぐ

重要なコンテンツを守る!

そしてもうひとつ、小友さんを代表する活動が、花巻市のシンボルとして愛されてきた『マルカン百貨店』の再生事業だ。

1973年に花巻市上町で創業した『マルカン百貨店』は、市内で唯一の老舗デパートとして愛されてきたまちのランドマーク。なかでも、地下1階から地上8階までのフロアで、特に人気を集めたのが、6階の「大食堂」だ。名物は、高さ25cmの特大ソフトクリームで、お箸を使って食べるのが花巻っ子の定番。古き良き昭和の面影を残すその魅力は、県外の観光客にも知られ、年間36万人もの人が訪れていた。しかし、建物の老朽化により耐震基準を満たしていないとして、2016年6月、全館閉店を余儀なくされてしまう。

花巻の人々の思い出が詰まった百貨店。なかでも「最大のコンテンツである大食堂だけでもそのままの形で残したい」と考えた小友さんは、花巻エリアでの経験を活かし、株式会社上町家守舎を設立。全館を固定資産税分の年間440万円で借り上げ、多くの人の協力のもと、1年も経たぬ間に「大食堂」を復活させた。

 

その後も、1階にカフェスタンドと物販スペース、地階に地元のスケーターたちが余暇を使って運営するスケートボードショップ&パークと段階的に整備を行い、2Fには小友木材店の木材を使用した「おもちゃ美術館」をオープンするなど、「モノ」ではなく「体験」を売る百貨店として再生中だ。

 

初志貫徹しなくてもいいじゃない!

「やりたいこと」に近づく方法

ITベンチャー・木材業・リノベーションまちづくりと、一見共通点がないように見える小友さんの活動は、その実「家業を存続させる」「花巻で楽しく暮らす」という大きな目標のもと、それぞれが影響を与え合い、ゆるやかに繋がっているように思う。

偶然の出会いやチャンスに臆することなく、発想の転換を繰り返し、挑戦を重ねる。今まさに現役で挑み続ける小友さんのトークに、これから事業に挑戦する参加者たちは、とても勇気づけられたようだ。

トークの最後に語った小友さんの言葉がとても印象に残った。

「やりたいことが見つからない人は“嫌じゃない” ことで、さらに“経済的に死ぬことがない”ことからチャレンジして欲しい。そうすると、思わぬ出来事や寄り道に出会う。岐路に立ったら、ワクワクする方へ軌道修正していけばいい。最大のリスクは何もせずに動かないこと。“やりたいこと”が途中で変わったっていいじゃん!」

>>エンボるスクールレポートvol.1はこちらから

 

 

 

 

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