トップに
戻る

【福岡ラーメン物語 のぼせもん。|四十五杯目 石田一龍 本店】

「初めて認めて貰えたラーメンで、もっと期待に応えていきたい。」

何をやっても続かなかった。一年も経たずに仕事を転々とする中、ラーメンと出会ったことで人生が変わった。ラーメンを作ることで、初めて他人に認められた。もっと期待に応えたい。がむしゃらに走り続けて気がつけば十年。周りには多くの仲間がいた。仲間とともに、新しい十年が始まる。


『石田一龍 本店』
店主 新森 龍二 (RYUJI SHINMORI)
1981年、福岡県北九州市生まれ。職を転々とする中で父親の店を手伝う形でラーメンの世界へ。28歳の時に『久留米ラーメン一龍』として創業。『石田一龍』と屋号を変えてグループ7店舗を率いる。

北九州のラーメンが熱い。早くからラーメンイベントなども精力的に行い、老舗と新進店が混在する北九州は、博多とも久留米とも違う、独特なラーメン文化圏を形成しているエリアだ。

そんな北九州で絶大なる人気を集めているのが『石田一龍』だ。創業して十年が経ち、その名前は福岡はおろか他県にまでも届くようになっている。店舗数も北九州を中心に福岡県内に5店舗、大阪にも2店舗を展開するなど、その勢いは止まることを知らない。

『石田一龍』の店主、新森龍二さんはラーメン屋になりたかったわけではなかった。何がやりたいという夢があるわけでもなく、20代の大半を過ごしてきた。

「何をやっても続かなかったんですよ。仕事に就いても一年も経たずにやめてばかりで。そんな時に父親がラーメン屋を始めて、自分も一緒にやるようになるのですが、それでもあまり身が入らずでした」

そんな新森さんがラーメンと真剣に向き合うようになったのは、一人の客のある一言がきっかけだった。

「僕の作ったラーメンを食べたお客さんが帰り際に言った『こんなまずいもの初めて食べた』という言葉が悔しくて悔しくて。そこから本気で美味いラーメンを作ろうと、7ヶ月間店に寝泊りして味の研究に没頭しました」

毎日スープを炊いては捨てての繰り返し。新森さんが目指したのは豚骨のコク、旨味、そして深みを極めた、濃厚でありながらも臭みやしつこさがないクリーミーなスープ。7ヶ月経ってやっと自分の味に自信を持てた頃、地元で開かれた『北九州ラーメンフェスティバル』に出場し3位を獲得。翌年には2位、そして次の年には優勝を果たす。

「何の仕事をやっても続かなかった自分が、ラーメンによって初めて認めて貰えたんです。たくさんのお客様に美味しいと言って貰えたことで、もっとその期待に応えていきたいと思うようになりました」

『石田一龍』の店舗はいくつもあるが、新森さんが営むのは本店のみ。あとの店は全て独立した弟子たちによる「暖簾分け」だ。

「僕がしっかりと店を見られるのは一店舗が限界だと思ったんです。スープもかなり手が込んでいますし、営業も気合を入れてやっているので。他の店舗はそれぞれにボスがいて、自分で責任を持ってやる方が良いのではないかと思いました」

 

豚骨ラーメン一筋でやって来た新森さんだが、最近メニューに「つけ麺」を加えた。自分が昔から好きだった地元のお店の味を受け継ぎたいという思いからだった。

「自分の大好きだったお店の味を残していきたくて、お願いして味を教わりました。北九州にはまだつけ麺文化がないので、食べた人も少ないんです。いずれはこのつけ麺で別のお店を出して、北九州につけ麺の文化も広めていけたらいいなと思っています」

豚頭とゲンコツを16時間炊き上げたスープは、目の細かな網で何度も何度も丁寧に濾す。こうすることで豚骨の力強い旨味は保ちながら、口あたりが驚くほど滑らかになる。しなやかで歯切れ良い食感の麺は地元の老舗製麺所『安部製麺』の細ストレート

「濃厚ラーメン(680円)/厳選した豚骨を16時間以上丁寧に炊き上げたスープは、しっかりと濾すことによって驚くほど滑らかな口あたりに。麺は地元小倉の老舗製麺所による細ストレート麺を使用。濃厚でありながら繊細な、唯一無二の豚骨ラーメン。

「チャーシュー丼」(350円)/常連客からの人気が高いサイドメニューは、味の染みたチャーシューの食感が軽やかでついつい後をひく

「激辛つけ麺並(ご飯・煮卵付き)」(1,240円)/地元の老舗の味をベースにオリジナリティを加えた新メニュー。麺の独特な食感は他にはない。激辛と言っても辛さはマイルド

『石田一龍 本店』
北九州市小倉南区下石田1-4-1
093-963-2650
11:00~16:00/18:00~20:45
※スープが売切れ次第終了
休 なし
席 24席
P 13台

【取材を終えて】

限りなく濃厚で限りなく繊細な北九州の味

若い頃はかなりヤンチャだったという「チョイ悪」な見た目の新森さん。しかしラーメンやお客様への思いは人一倍熱いものがあり、人当たりも優しく実直な人です。だからこそ多くの仲間が新森さんを慕い集まってくるのでしょう。そして彼が作るラーメンも同様に、見た目はかなりワイルドですが、食べてみると神経を使った繊細な作りをしているのが分かります。これだけ濃厚でありながら臭みを感じさせず滑らかに仕上げるには、徹底した下処理と丁寧に濾す工程が必要で、手間や面倒を考えると大抵のお店はやらないもの。そこには新森さんのお客様を裏切りたくないという思いと、博多や久留米に負けたくないという北九州ラーメンとしての誇りを感じます。


ラーメン評論家 山路力也 (Rikiya Yamaji)

テレビ・雑誌・ウェブなど様々な媒体で情報発信するかたわら、ラーメン店のプロデュースなど、その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」(fukuoka-ramen.themedia.jp)でも情報発信中

法人様・自治体様向け情報サイトはこちら