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【インタビュー】映画『無頼』より井筒和幸監督…「昭和の男たちは今と熱量が違う」

 フィルモグラフィーを辿れば、社会からはじき出されたあぶれ者ばかりを描いてきた井筒和幸監督が、またしても強烈なメッセージを放つ豪胆な映画を完成させた。激動の昭和を徒手空拳で生き抜いた男たちの姿から、心を熱くするなにかを感じとれるはずだ。

 

井筒和幸 / ’52年生まれ。奈良県出身。日本を代表する映画監督。『ガキ帝国』(’81)で日本映画監督協会新人奨励賞、『岸和田少年愚連隊』(’96)で第39回ブルーリボン最優秀作品賞、『パッチギ!』(’04)では、’05年度第48回ブルーリボン賞作品賞他、多数の映画賞を受賞

■戦後の“欲望の昭和”を見直すことこそが、
今、僕がやるべきことだと思ったんです


――撮影にあたっての動機や胸の内を聞かせてください。

井筒:色々ひっかかっていたんですよ。今、はぐれ者とされている人たちは、出自などでそういう境遇に追いやられていて、それこそが問題。なりたくてアウトローになる人間なんていないんだから。社会から締め出されて、その家族はどうするんだと。差別とかヤクザ社会を昭和史と共に見つめてみることが、今僕がやることだろうと思ったんです。戦後の欲望の昭和を見直した方がいいんじゃないのと。反面教師でいいから、なにかのヒントになればいい。僕も『仁義なき戦い』からたくさんのことを学びましたから。


――阻害されている人々に焦点を当て続ける理由は?

井筒:簡単ですよ、そういった周辺社会が目の前にあるから。社会の中心部には実も何もなくて空洞。ただ権力があるだけ。周辺に追いやられている、ギリギリのところで生きざるを得ない境遇の子や大人を僕は小さい頃から見てきたし、見つめたい。そこにこそ本当の日本の庶民史があるんじゃないかな。だから必然的にアウトローものが多くなりますね。


――出演者は主にオーディションで決められたそうですね。

井筒:3000人以上の中から選びました。主演のマツくん(松本)は以前紹介されたんですが、彼は昭和の顔をしてるよね。「オーバーな演技さえ止めてくれれば」と伝えて現場に臨ませました。どこかで見てきたような大仰な演技はダメだと。しっかり応えてくれました。


――昭和を知らない世代にも響く作品だと感じました。

井筒:今の若者は欲がないな。諦め慣れていて欲を最初から知らない。当時の男たちは今と熱量が違う。観てもらえば少し気合が入ったり、人と人の関係をもっと大事に考えたりすると思うよ。今は相手と面と向かって話さなくてもいい時代になってる。デスクが隣なのにLINEで会話していたり。目をそらさないで話をしろと。現場でもよく「目を見て話そうぜ」と言っていました。芝居でも「凍りついたように相手の目を見ろ。それがリアルだよ」と。

 

© 2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

【STORY】’56年、孤児となって日雇いで食いつないでいた井藤正治は、学生をカツアゲし売血まで強要しながら不良の世界に歩んでいく。世間が東京オリンピックに沸く’64年、ヤクザと揉めて指を詰めた正治は、自分も極道になることを決意。’71年、正治は網走刑務所から出所し、“虎”の異名を持つ武闘派・川野組組長と親子の杯を交わす。自分の組を構えて次々と抗争を繰り広げ、名を轟かせていく井藤組。オイルショックの余波が残る’73年、正治は偶然出会ったホステスの佳奈に心を奪われ…。

『無頼』 / 上映中

 

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