【インタビュー】東映任侠映画の血脈を継ぐ、 白石監督最新作映画『孤狼の血』

©2018「孤狼の血」製作委員会

暴れる役所広司。迫力、存在感、重み。
新人刑事を演じる松坂桃李の演技も圧倒的な凄み。
「東映らしい映画を」を合い言葉に作られた映画は、血が沸きたつような“漢”の映画だ。

原作者・柚月裕子が深作欣二監督の『仁義なき戦い』(’73)と『県警対組織暴力』(’75)に影響を受けて書いたと公言する小説の映画化にあたり、白羽の矢が当たったのは、『凶悪』(’13)、『日本で一番悪い奴ら』(’16)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(’17)と、観客の心をわしづかみにする映画を撮り続けている白石和彌監督。

映画が娯楽の中心で、任侠の世界という独特の世界を描くことで非日常へと観客を誘っていた東映ヤクザ映画を彷彿とさせる映画が、今、ここに完成した!!!

冒頭から度肝を抜かれる映像で、監督が言うところの「どんなものを見せられるんだろう?耐えられるかな?というドキドキ感。暗闇でこっそり観る感覚がいいんだから」というまさにそんな怒濤の126分の映画の興奮もさめやらぬうちに、白石和彌監督と、物語を動かすポイントになる暴力団構成員を演じた音尾琢真さんが来福。

映画の世界観を大切にする東映さんが用意してくれたのは、真木よう子さん演じるクラブのママがひょっこり出てきそうな、中洲のクラブ(営業前ね!)。ゴージャスな空間でじっくりと映画について聞いちゃいました。

 

—まったく長いと感じないのに、登場人物に感情移入しながら一緒に驚ける間がきちんとある。その見事な手腕に脱帽です。

白石:そう言っていただけるのはうれしいですね。小説ならではのトリックをそのまま映画にはできないので、映画独自の仕掛けを作ることで、盛り上がりのポイントを意識しました。

 

—原作者の柚月先生とは何かお話されましたか?

白石:(『孤狼の血』は)『仁義なき戦い』(’73)や『県警対組織暴力』(’75)など、深作欣二監督の東映ヤクザ路線がやりたくて柚月先生が書いたのですが、ミステリーの要素もあり、インテリジェンスも熱量もある面白い小説です。「映画はほぼおまかせします。ただひとつだけ、熱い映画を作ってください」と言われました。映画としてより面白くなるように、自由にやらせていただけたので、ありがたかったです。

 

—熱い映画に。という要望にどう応えようとしましたか?

白石:『日本で一番悪い奴ら』が終わった頃に、東映のプロデューサーから「『仁義なき戦い』の頃のような熱い映画を東映で蘇らせたいんだ」と言われまして。「困ったな」というのが正直なところです(笑)。日本の映画史に燦然と輝く作品群が作られた頃は、京都撮影所に大部屋俳優がいて、あの頃の役者さんは、こういうクラブに来て、ホンモノの人たちと酒を交わしたり、話を聞いたりもできました。けれど、今は全部ダメ。熱いモノと言われても、やれる方法が1コも思いつかない!という感じでした。でも「今、それをできるのは白石だけだ」と言われたのは監督冥利に尽きると思いました。なんとかなるというポジティブ・シンキングと、ダメだったら監督やめればいいや、そのかわり悔いのないように作ろうと腹をくくりました。

 

—音尾さんは監督の映画にたくさん出てらっしゃいますが、白石監督の現場はいかがですか?

音尾:白石監督は現場で必ず台本に書かれていない演出を1つ2つ入れてくるんです。それがシーン自体をグンと熱量があるものにしてくれる。ほんとにちょっとしたことなんですけど、その一つひとつの積み重ねがそれぞれの役を深めていくし、シーンを良くしていくんです。そしてモニターを見て監督が笑ってる。それぐらい監督が現場で誰よりも楽しんでいる。そこまで楽しんでいる監督さんは見たことないです。その楽しみ方もひとりよがりでなく、みんなが聞いて納得できるんです。ああ、いいぞ、これ面白い、やりたい!ってなるんです。白石監督の作品に出たい役者はまだまだたくさんいますが、僕は毎回出させてもらっている身として、みんなには大したことないよって言うことにしてます(笑)。

 

—音尾さんは今回の役柄をオファーされた時はどう思いました?

音尾:まず笑いましたね。非常に特殊な、団体の中でもゲスい男。真珠を入れて、それを自慢にしている男ということで。元々品行方正な役者なので(笑)、ここまでの役をやっていいんですか?と思いました。実は白石監督は出身校である旭川西高の1コ上の先輩にあたるのですが、監督の映画に出させてくださいと言った日から、どんなオファーでも受けますと言ってるんです。そう言って2つ目に来た役がポルノ作品だったりしたんですけど、いろんな役を振ってくださるので、僕にとってはうれしい限りなんですが、特にこの役は笑っちゃいました。

白石:最初、真珠をどうしても入れたいってね(笑)。

音尾:監督、これは僕、真珠入れますよって(笑)言いましたけど…。ギリギリになって監督に、「音尾くん、パンチパーマできる?」と言われて、直前にパンチパーマをかけました。ガチンコパンチパーマ! 2〜3時間、細いロットでギューギュー巻かれるのはけっこう痛いんですよ。その痛みにも耐えることが僕の監督への服従の証しです(笑)。

 

—全身入れ墨にはどのくらい時間がかかったのですか?

音尾:約4時間です。僕の入りが朝7時だったので午前3時起きでした。本当に素晴らしい出来で、エアブラシを使って描いていくんです。

白石:昔より時間短縮されましたよね。僕が助監督時代は8時間かかってましたから、今はその半分くらい。

音尾:半分くらいだからって、楽になったかと言われたら、そこは4時間かかってんるんで!!!!

白石:スタッフに何度も「ここまで映りますか?」「ここまでで良くないですか?」って聞かれましたが、「ダメダメダメ。太ももまで」って描いてもらいました(笑)。

音尾:ちゃんと、全部撮影してくれましたからね。本当の入れ墨は痛いんでしょうけれど、エアブラシだからこしょばいんですよ(笑)。される時は。コショコショコショって。あーオレ、朝から何してるんだろうな?って気持ちになるんですが、でも擦れると消えちゃうので、なるべくそーっとね。あんな風に見えて、そーっと動いてました。そういった一瞬一瞬の苦労を積み上げて、映画ができあがっているんです。

 

—世代的にもヤクザを知らないと思うのですが?

音尾:父が…(と言ったところで周囲に緊張が走る!)…いや、そっちの人ではないんですが(笑)。マル暴の刑事だったので、父から話を聞いたり。

白石:実は『日本で一番悪い奴ら』のモデルになった稲葉さんは、音尾部長の直属の部下だったんです。

音尾:僕は『日本で一番悪い奴ら』にも出させていただいているのですが、台本を読んだ時に、「今落ち込んでおります。父も同じことをやったんじゃないか。もう父が信じられません」と(笑)!取り締まる方々もパンチパーマですからね。父が同僚と釣りに行った写真はみんなパンチパーマでした(笑)。

 

—音尾さんに怖いイメージができてしまったのでは?

音尾:ありがたいです。その方がいい人をやった時にもっといい人に見えます(笑)。もう普通がわかんなくなっちゃった(笑)。そうやって幅広い役をやらせてもらえるのは、本当に白石監督のお陰です。

白石:とんでもないです(笑)。

 

—監督にアドバイスされたことで印象に残っていることは?

白石:フィリピンの発音を一回ネイティブみたいに言ってみようとか。

音尾:そういうことくらいしか言ってもらってないですね。でもそういうちょっとしたことで、キャラクターが濃くなるんですよね。

白石:撮影現場に行くまでにいろいろアイデアが浮かんできて、現場に来てみると、パンチパーマとかそういう格好をした役者さんたちがいて、それを見た瞬間に思いつくことが多いですね。とんでもないことを思いついちゃうこともあるんですけど、それは自分の中で却下しますが、これはありかな?というのは一回やってみないと自分の中で収まらないんですね。ああ、これないな、と内心思いながらも、役者が喜んでやっちゃってるから、やらせといて編集で切る、というのもあります(笑)。

 

—役者としてもやってみたい役なんでしょうね?

白石:この映画が完成してからも、この作品に出てない役者さんに会うと、「なんでオレを出してくれなかったんですか!?」って、すごく言われました。獅童さんは出てますけど、衣装合わせの時に「なんでオレヤクザじゃないんですか!ヤクザが良かった!次はヤクザじゃなきゃ監督の映画には出ないですからね!」ってすごい怒ってて。どうなってるんだ?って思いました(笑)。本当は、みんなやってみたいんだと思うんです。今日本の映画で品行方正の役を求められることも多いでしょうし、やっぱ反対側にこういう映画があったら暴れたい!という願望があるんじゃないですかねー? 嬉々としてみんなやってくれました。
『仁義なき戦い』は東映京都撮影所で撮影しています。昔の撮影所には大部屋俳優がたくさんいて、文太さんというスターにピラニア軍団がどう立ち向かっていくか、というのも映画のエネルギーになっていたと思います。マル暴の後ろの方にいる人は全員パンチパーマの時代なのに、ボランティアのエキストラで集められるの?って思っていましたが、呉って、そういうのが好きな人がいっぱいいるんですね。助監督を呼んで、「ちょっと、本物呼んでないか?」って聞くくらいの熱量を持った人が集まってくれました。作ってみてはじめて、役者だけでなく、一般の方もこういう映画を待ってたんじゃないかと実感したところはありますね。

 

—俳優・役所広司さんの存在感が凄かったです。

白石:役所さんは、毎回特別なことをしている印象がないんです。台本のト書きとセリフを、素直にやられて、演出家のこうしてほしい、という思いもくんで、直球を毎回投げている感じなのですが、球威があって重たい、芝居が太く見える印象ですよね。毎回どの役をやってもその年齢にジャストフィットしている印象があります。役を自分に引き寄せているんでしょうね。この作品は、原作は45歳という設定で、役所さんは還暦というタイミングだったんですが、若く見えるしこの年齢が正解だと常に思わせる。それがやっぱり長年日本の俳優としてトップランナーである秘訣だと思います。

 

—松坂さんの演技にも凄みがありました。

白石:松坂くんは2本目だったんですが、あまり小細工をしないという点で役所さんに似ていますね。どこか似ているところがある。今30歳の松坂くんが役所さんとバディものをするというのが役者人生ですごく大きいことだから、彼が40代、50代となった時に、役所さんみたいになるのかな〜。作品の選び方も群を抜いていますね。これからの日本映画を背負って同じような歩みをする可能性があるんじゃないかな、と『彼女がその名を知らない鳥たち』の撮影の時にも感じて、また一緒にやってみたいと思ったんですね。本当に桃李くんはクレバーだし、そこには何の問題もなく。

音尾:昔から役所さんのファンで、「俳優・役所広司に外れはないな」と思っているのですが、最近3作ほど共演させてもらえる機会がありまして、何をどうしたらあんなにいい芝居ができるんだろう?とずっと見ていたんですけれど、見れば見るほど普通のことを普通にやっているだけなんです。でも普通にやったことが普通じゃないんです。とことん芝居を尽くして演技を入れ込んで、普通の演技を作っているんだな、と最近わかってまいりまして。真似していこうという胸中です。

 

—広島で撮影して良かったことは?

白石:これからはヤクザが出てくる映画は時代劇になっていくと。ヤクザと直接会うこともないし。抗争があるようなヤクザ映画が時代劇になっていくと思います。呉に実際行くということは、居酒屋に行ったら呉弁をしゃべる人たちがいて、「うちのおじいちゃんは●●組の若い衆やったんや」とか、嘘かホントかわからない話をしてくれたりする。だから呉に行くことはスタッフにとっても役者にとっても大きいことだったなと思いました。映画ができてから広島で試写をしたのですが、最後に会場を出る時、そっちの人かな?と思う人が目の前にバッと来られたので、「え!?」と慌てたのですが、握手をして「うん、うん」とうなずいていて。もう、言葉もないんです。よくやったという顔で。ああ、良かったと思いました。最大の賛辞ですね。

 

—音尾さんはいかがでしたか?

音尾:実際、呉に行ってこの空気感にいれる、浸れるというのはありましたし。造船所しかないわけでもないんだな、というのがわかったし、冷麺が美味しい(笑)。ただひたすらに呉を楽しんでしまいました(笑)。街自体の人のエネルギーといいますか、みんながこの映画を応援しているという。この呉で作られる映画に誇りをもっていることを感じることができました。

白石:でもその前年に呉を舞台にした映画が『この世界の片隅に』でしたから。アニメなのに片渕監督がちゃんとロケハンしてスケッチ起こして作っているので、アニメなのにロケ地マップができてるんですよ。そのロケマップを『孤狼の血』が塗りつぶしちゃっていいのかな?と思ってたのに、ちゃんとロケマップを作ってくれていて。ここで抗争がありました。とか、ここが●●組事務所です。とか、そのロケ地マップ大丈夫かな?ってこっちが心配するくらいでしたが、とっても歓迎してくれて、嬉しかったですね。

 

—タイトルの「血」の意味をどう捕らえますか?

白石:血脈ですね。アウトローもそうですが、血の繋がりがないからこそ疑似家族を作ったり。マフィアもそうですが、○○一家を作ったり。仕事をする上でも僕はそういうのをすごく感じる。僕は若松監督の弟子ですが、監督が亡くなった後、『凶悪』という作品を作った時に、自分としてはそんなつもりはなかったけれど、やっぱりどこかで監督が見ていた世界観が自分の中に残っていたんだな、と。そういう関係性みたいなものは、この大上(役所)と日岡(松坂)にも感じました。生き方とか生き様をつないでいくことを「血」という言葉で表現しているんだろうな、と感じました。日岡に受け継いでいく血は何なのか。生き様は何なのか、と考えました。

音尾:躍動する人間たちに流れる熱き血潮みたいなものを感じますね。みんなが熱く動き回り、グアッと沸騰する血だと思います。

 

—セットや屋外などいろんな場所で撮影されていますが、特に大変だったシーンはありますか?

白石:大変だったのは養豚場のシーンですね。豚が「死んだら1頭10万円ですよ」という話だったので。どうしようと。広島が舞台だし、牡蠣の養殖場にしませんか?という代替案も出されたのですが、食物連鎖の頂点に狼がいるとしたら、食べられる側の象徴として豚が使いたかったんです。使っていない養鶏場を養豚場にして、屠殺場に行く直前の豚を拝借して撮影しました。でも豚と心が通ったんですよ! 豚は夜7時には寝ちゃうんですね。で、寝ている豚を「ホラ、起きて〜、こっちに来てここにいてね」と言うと、ちゃんとそこにいてくれましたから。食後30分くらいでフンをするのに気づいて、あの冒頭のシーンを撮ることができました。ふだんいる豚舎よりも広かったようで、ストレスもなくいい肉質で出荷されたと聞きました(笑)。

●映画『孤狼の血』は5月12日(土)よりT・ジョイ博多他にて全国ロードショー!
(R15+)

www.korou.jp/

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