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【インタビュー】空気公団「いつも見ている景色がワントーン変わる瞬間を『空気公団』で感じてもらえたら」。

取材・文・撮影/本田珠里(編集部)

 

今年結成から21年目を迎えたバンド『空気公団』が、ニューアルバム『僕の心に街ができて』をリリース。結成当初は演奏している姿を殆ど見ることがなくリリースされる音楽は様々なところで注目される、その名の通り“空気”のようなバンドだったと記憶している。そんな『空気公団』のメンバー山崎ゆかりさんが来福。貴重なロングインタビューを公開!

 

【空気公団 うつろいゆく街で】※6月度FM FUKUOKAパワープレイ

ーこれまでの作品は様々なミュージシャンが参加されていましたが、今回メンバーだけで制作に至ったきっかけは。

逆に今まで3人だけで作った事がなかったので、メンバーだけで作ってみるのも今だったら…今がちょうどいい時期かもしれないと、原点回帰のような感じで考えていたんですけど、私さっきすごい発見したんですよ!

 

ー発見ですか(笑)? しかもさっき?

そうなんです(笑)。さっき老舗のうどん屋さんでお昼を食べたんですが、行列に並んで順番を待って、うどんを食べた瞬間なぜ3人でやりたいと思ったか謎が解けたんです(笑)!店内は麺を茹でて天ぷら乗せて提供するまで見事な連携プレーが進む中で、どんどんお客さんは入れ替わっていくわけです。その連携プレーが誰一人外れちゃいけなくて、でも誰一人豊かな個性を出しているわけでもなくて、お客さんは味と店の雰囲気で来店してるんだなと。そして店に通ううちに「おやじさん元気かな」とか、少しずつ個の部分にスポットを当ててくる人が増えることで、老舗として成り立っている。私たちの音楽も同じなんじゃないかなと思ったんです。

 

ーまさかうどん屋が出てくるとは思いませんでした(笑)!

まずは最初に音楽ありき、バンドが店だとしたら、そこで提供する音楽をまた聴きたいと思ってもらえるかが大事だったんです。もともと『空気公団』を結成した時から、個人要素に注目してもらうつもりはなくて(笑)。例えば、突然“出汁担当”が辞めますっていうと解散危機になると思うんですけど、最初に『空気公団』という箱を作ったことで、メンバーが変わっても続いているのかなと。初期の方が好きと言われることもありますが、それは先代の味のが好きって言う人もいるように当然のことで、それでも店が続くのは、最初のコンセプトが変わってないからなんです。もしかしたら私たちが死んでも「空気公団を継ぎます」っていう人がいるかもしれない(笑)。それ位、いわゆる多くの人が考える“バンド”とは違う形や感覚をもっているかも。

 

ーその感じ、一人の空気公団ファンとして、すごく腑に落ちます(笑)。

そこが謎だと感じたり、そのヴェールを剥がしてはいけないような雰囲気に繋がっていた気がします。うどん屋さんの連携プレーを見て、そんな自分たちに重ねてしまいました(笑)。私自身もそういうお店が好きだし、個性を強く押し出す音楽と、先ずお試しくださいって提供する音楽と少し違うんだなと。連携プレーを重ねてきて、まだこんな定番メニューを出し続けているよって言える私たちらしさが、今作にはしっかり現れてると思います。

ー個人的には今までの作品と比べて、バンドサウンドには変わりないのに今までの作品より、さらに丸く、暖かく感じる音でした。

そうですね、前作は特に定番メニューはもちろん、初めてきたお客さんに対して、こういうのもありますよって出せる店だったのかなと。すみません、うどん屋に例えてばっかりで(笑)。

 

ーいえいえ、タイムリーな話を聞けて嬉しいです(笑)。楽曲制作にも違いはありましたか?

今まではタイトルを決めて、そこからみんなでイメージを膨らませていました。でも今回は、『僕の心に街ができて』というタイトルに加えて、ジャケットをお願いした志村貴子さんの絵をイメージしつつ、膨らませるボリュームを漠然と描けるところまで持っていったんです。制作自体は20年くらい一緒にいると「今悔しいんだろうな」、「これは良いテイクだったんだな」とか何も言わなくても分かるので楽だし、3人だけだと逆にワガママになったり、とことん突き詰めたりできるので結果さっき言われたように丸くなったかもしれないですね。でも、その感覚は志村さんのジャケットの視覚からもきてるんじゃないかな。

ニューアルバム『僕の心に街ができて』発売中/3300円(税込)

ーあ、そうかもしれないです、総合的なイメージ。志村貴子さんはアニメーション『青い花』への楽曲提供がきっかけだと思うのですが、今までもお願いする機会はあったのでは。

去年20周年迎えて、今年21年目ってなった時、今かなと思ったのが志村さんでした。自分の気持ち次第で、このジャケットの女の子が悲しいのか、喜んでいるのか、誰かを待っているのか、何かを決断をした瞬間なのか…色んな感じに読み取れる、最初の空気公団の謎な感じがこの絵の中にも表現されている気がしますね。

 

ーわかります。私もアルバムを聞きながらジャケットを眺めていて、この子はどういうシチュエーションなんだろうって考えました。最初この絵を見た時の感想は?

先にアーティストイラストっていうアーティスト写真に代わるものが来たんです。それを見て「あっ、なんかサービスしてくれてる〜!」って思いました(笑)。メンバーも私もこんなポーズをとることないし、こんな服を着ることもないのにイラストの中で可愛く表現されているのが面白くて、ジャケットはどんなタッチかな…とワクワクしていたら、この絵が届いて本当に一同感動でしたね。初めて空気公団の音楽に顔がついたというか『僕の心に街ができて』を、どんな絵ですかと問われたら、まさにコレだなと思いました。

その志村貴子さんによる空気公団のアーティストイラストはコチラ。 (中央)山崎ゆかり:空気公団代表。歌・作詞・曲担当/(左)戸川由幸:ベース・ギター・録音担当/(右)窪田渡:鍵盤楽器・編曲担当

ー志村さんの漫画やアーティストイラストのタッチとも違って、一枚の絵としてもCDを手にしたくなる作品ですね。そして今回の収録曲も全て山崎さんの歌詞がシンプルで美しくて、本当に癒されたというか…泣けました。

ありがとうございます。この前、台湾人の友達に「“うつろいゆく”とか普段使う?どういうこと?」って聞かれて気付いたんですが、日本人特有の書き言葉ですよね。「うつろいでるね?」って言わないじゃないですか(笑)。日本人にしかわからない情緒なんだなって改めて感じたんですよ。

 

ー確かに。空気公団の歌詞には“愛”や“恋”という直接表現がほとんどないんですが、そこに逆に日本語の美しさを感じます。

直訳しやすい歌詞であれば世界共通で通じるのかなと思うんですが、私の場合、1行と2行の間に実はもう1行、うっすら感情を含めている部分があるかもしれません。昨日熊本にいて、福岡に戻るバスの車窓から外を眺めていたら、日が落ちて一面オレンジになって、綺麗だなと写真を撮ってみても全然その色に映らないんですよね。そんな一瞬を、他の街に住んでいる誰かも見ているんだろうなと思うと、想像が広がる気がしてきます。そんな何気なくて自然にみんなが見逃してるかもしれない部分からヒントを得る事も多いです。例えば、駅で男女が別れている場面を目にした時、彼らはもう一生合わないのかもしれないし、明日もまた会うかもしれないとか色々考えたりして。

 

ー日常の想像力が言葉を生み出してるんですね。

そうなんです。絵描きの方やライターの方は音楽聞きながら作業する方も多いじゃないですか。でも私たちは作曲している時に他の音楽は聞けない無音の状態なので逆に音楽聞きながら何かを想像するっていう感覚がないんですよね(笑)。

 

ー音楽を作る時に音楽を聞きながらは無理ですよね(笑)。

でも、自分の音楽はデモが出来た段階で街の中で聴いてどれだけ馴染んでいるかっていう“街チェック”をします。結構楽しいんですよ。で、CDになってから、また審査員の気分で聞くんです。「お、いいじゃない?」みたいな(笑)。

 

ー家で音楽を聴くより、移動しながら音楽と一緒に行動することが当たり前になってきましたよね。個人的にも街の景色を見ながら音楽を聴くことがはるかに多いです。

いつも見ている景色が急にワントーン上がったり下がったり見える感覚が私の中では重要で、そのふとした瞬間が急に舞台になって今から会う人たちはみんな登場人物なんだって思える位にまで聴こえたら面白いなって。

ーライヴについても伺いたいのですが、結成当初の数年と比べて、特にこの数年はアジア圏も含めライヴの回数が増えています。その心境の変化は。

最初に触れたように、音楽が空気公団で、私たちは空気公団の演奏者っていう形が理想的で、それが揺らいだり演奏者にスポットが当たるのを避けたかったんです。でも“もう大丈夫、揺らがない”って思うタイミングがあったんですよ。ただステージでの立ち位置やライヴのやり方はこだわっています。ヴォーカルの私が真ん中で、「山崎で〜す!いぇ〜い!」みたいなのはちょっと無いかな(笑)。連携プレーが出来なくなっちゃうので。例えば、うどん屋のみなさんがライヴをするってなった時、「ごぼう天は私です!」っていう主張はないと思うんですよ。絶対みんな真っ直ぐ並んで「○○○(屋号)です!」ってなるソレです(笑)。空気公団も、誰もいないところにライトが当たっていても全然オッケーなんです。

 

ーライヴをすればお客さんの反応を直接肌で感じれると思うんですが、自分の作った音楽をどう受け止められているかは気にならなかったんですか?

お店にCDが並んだ時にこっそりみんなで行くんです。で、試聴機で聞いてる人がいたら「よしっ!」て、そんな感じでした(笑)。あとは好きに育ててもらっていいと思っていたので、初期の頃はツアーをやる意味ってが良く分からなかったんです。でも「私、一方的に手紙出してたけど、お返事もらってないや」って思って。今はそれをもらいに行ってる感覚です。そこで空気公団がみなさんの中でスクスク育っているのを感じて、「これを聞くとあの時を思い出すんです」って言われると、心から「ありがとう〜」って嬉しくなります。「あ、里親だ〜」って(笑)。

 

ー福岡公演は11月、それまでにこのアルバムがファンの皆さんの中で育っていくんでしょうね。今日は取って出しのうどん屋の話も聞けて楽しかったです(笑)。

あはは(笑)。今回のライブは全会場もちろん同じ曲も演奏しますが、会場の雰囲気に合わせて曲目を変えていこうと思ってるんです。是非楽しみにしていてください!

旅する音楽 presents 空気公団ライブツアー2018『僕の心に街ができて』

日時 2018年11月4日(日)
会場 ROOMS(福岡市中央区大名2丁目1-50 大名ONOビル3F)
開場 17:30 / 開演:18:00
料金 前売 ¥4,000 / 当日 ¥4,500(1ドリンクオーダー /全席自由※整理番号あり)
チケット発売日:7月21日(土)
・チケットぴあ (Pコード:117-872)・ローソンチケット (Lコード:82683)
問合せ:旅する音楽 / ジャズとようかん 0977-84-3838
企画・制作:旅する音楽

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